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第三章:雨の中で

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 「今週末、この神社で秋祭りがあるんだ
よな。町内会主催だから、そんなに規模は
大きくないけど」

 「知ってます。確か、二日目の昼間は地域の
子供たちが神輿を担いで回るんですよね。
毎年、家の近所を神輿が通ると、秋を感じる
というか」

 僕はチラシを見ながら頷いた。

 「祭り」、と聞くと“夏”をイメージする人が
多いかも知れないが、実は、夏の暑さが和らい
だこの時期も各地で祭りが執り行われている。
 秋祭りには収穫に対する感謝と、翌年の豊作
を祈願する意味があり、地方では郷土の伝統や
歴史を再現したものが多いのだけど、都市部で
も実りの秋に感謝し、無病息災を祈願する祭り
があちこちで行われていた。

 浴衣を着て出かける夏祭りも風情があって
いいけど、僕は秋の夜空にぽっかりと浮かぶ
提灯の灯りも好きだ。子供のころはお小遣い
がなくなるまで、友達と出店を回って歩いた
ものだけど、大人になってからはあまり足を
運んだ記憶がなかった。

 「でさ、知ってる?二日目は神社の祭りと、
隣町の花火大会に行く人とで分かれんの」

 「へぇ、隣町は花火なんですか。知りません
でした」

 「実はさ、その神社の駐車場からも隣町の
花火が観えるんだよね。前に彼女と祭りに
行った時見つけたんだけど、すごい穴場なの。
木々の隙間から観る感じだけど、遠巻きに
観る花火も風情があってよかったんだわ」

 にぃ、と意味深な笑みを浮かべながら、
ちらりと僕を見る。
 要するに、その穴場とやらを教えてやるか
ら、彼女を誘ってみろ、ということだろう。
 僕はチラシを見、あの時、玄関前で振り
返った彼女の顔を思い出した。
 もし、「好きだ」と言えていたら、彼女は
どんな顔をして振り返っていたのだろう?
 そして僕は、その彼女にどんな顔を向けて
いたのか……
 その光景を思い浮かべれば、急くような
想いが胸を押し上げる。

 「町田さん、その場所、教えてもらえ
ますか?」

 「もちろん」

 何かを決心した顔でそう言った僕に、彼は
大きく頷いて、ポンポン、と肩を叩いたの
だった。





-----その日の夜。



 日曜日、氷天神社のお祭り行かない?


 という、あまりにシンプルなメールを送る
と、すぐに彼女から返事が返ってきた。
 件名は、(行きたいです♡)。
 可愛いハートマークに頬を緩ませながら
本文を読むと、子供のころからお祭りに行く
と必ずソースせんべいを食べた、だとか、
ベビーカステラを買って持ち帰り、練乳を
つけて食べるのが好きだとか、金魚すくい
が得意で、32匹も釣ったことがあるだとか、
行く前から僕まで楽しくなるようなことが
沢山書いてあった。
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