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【運命の交差点】

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「いいわよ。自分でやるから」

「そんなこと言って、もう何日もこのままだろ?」

「そうだけど、でも……」

「いいから。早く持ってこいよ」

俺は観葉植物の鉢植えを起こすと、

絨毯の上に散らばった土を手で集め始めた。

しぶしぶ部屋を出て廊下に向かう尚美の

背中を視界の端で見送ると、窓の外を見上げた。

けれど、あの日、ゆづるが描いた白い弓月は

空のどこにもいなかった。



翌朝。

浅く短い眠りから目覚めると、俺はゆづるから

受け取った紙切れをポケットにねじ込んで家を出た。

休日の早朝は街を歩く人の姿もまばらで、

心なしか空気も澄んでいて軽い。

寝不足の体は疲れて重かったが、

少しの休息でくっきりと冴えた頭は

ゆづるの喜ぶ顔を脳裏に映し出していた。

昨夜は結局、あの店に行かなかった。

片付けを終え、尚美の部屋を出たのは

東の空がうっすらと東雲色に染まり始めた頃で……

始発を待って店に駆けて行ったところで、

あの重い扉が開くとも思えない。

仕方なくまっすぐ家に戻り、

最後の1錠を口に放り込むと、

俺はベッドにもぐり込んで朝を待った。

「まいったな……」

開店したばかりの広い店内の一角で、

俺は白い紙きれを手に肩で息をついた。

目の前にずらりと並ぶ色鉛筆は、

見事なグラデーションを棚に描きながら

こちらを見下ろしている。

ゆづるのメモと壁一面に広がる棚を交互に

眺めてみても、3ケタの品番だけでは

素人には「色」の見当もつかなかった。

「503……503……」

俺は無意識に品番を呟きながら、

端から端まで、ゆっくりと色鉛筆を探し始めた。

「……あった」

ようやく1本目を見つけ、手に取って見る。

あの夜、俺が月明かりにかざした黄色の色鉛筆で、

ゆづるが“よく使う”と言っていた色だった。

巧みに光を描く彼女には、きっと欠かせない色だろう。

何とはなしに緩んでしまう頬をきっと引き締めて、

俺は色鉛筆と紙切れを手に次の色を探し始めた。

ずらりとメモに並ぶ数字は、数えてみれば16個ある。

見当もつかないまま、残りの15本を探すのは

案外、時間がかかりそうだ。

「507……50……」

俺は番号の近い色に目を走らせながら、

右に一歩体をずらした。その時だった。

「お探ししましょうか?」

不意に、控えめな声がしてくるりと左を向いた。

黒いエプロンを身に付けた小柄な女性店員が、

アルミの買い物カゴを差し出しながら、

こちらを見上げている。

「ありがとう」

俺は差し出されたそれを受け取りながら、

でも、と言って小さく被りを振った。

「自分で探すから。大丈夫ですよ」

「……そう、ですか?」

一瞬、困ったように瞬きをする店員に、

頷いて笑う。
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