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【運命の交差点】
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店の前に立ってガラス越しに店内を覗く。
と、カウンターにポツリと佇む弓月の
姿があった。
会えた-----
僕はまず、そのことにホッとして
頬を緩めた。そしてポケットから手を出すと、
彼女に向けて手を振る。
けれど、弓月は魂が抜けたようにじっと
一点を見つめたまま動かなかった。
すぐ側に立つ僕の存在に、
まったく気付いていない様子だ。
僕は表情を止めて唇を噛むと、
ゆっくり店の扉を開けた。
カラン-----
軽快な音とともに、弓月が弾かれたように
顔を上げる。
「いらっしゃ……」
ドアの前に立つ僕を見て、一瞬、
困ったように表情を曇らせると、
すぐにまたいつものように笑った。
「やだ、お客さんかと思った…」
「ごめん。さっきからそこで手を振って
たけど、気付かないみたいだから」
僕は苦笑いをしながら肩を竦めると
弓月の前に立った。
「うそ、ごめんなさい。
私ったらぼーっとして……」
額に手をあてて、弓月がうな垂れる。
僕はいや、と言って首を振ると、
カウンター越しに身を乗り出して弓月の
頬に触れた。
「まだ具合悪い?今日も顔色が良くないけど」
ひんやりと冷たい手の平を押し付けられた
弓月が、体を硬くしながら小さく頷く。
手の平から伝わる体温はやや熱く、
やはり風邪を引いているようだった。
「頭が痛くて、食欲もないの。
ちょっとフラフラするし……」
「風邪、だろうね。辛いなら座っていた
方がいいよ。ほら」
僕はカウンターの中側にある白木の
丸椅子を引き出して、弓月を座らせた。
「ありがとう」
言われるままに腰を下ろして、ほぅと
息をつく。僕は弓月の前にしゃがみ込むと、
手を握って顔を見上げた。
「ごめんなさい。これじゃ散歩にも
行けないわね」
申し訳なさそうに弓月が顔を歪める。
僕は大きく首を横に振って、握る手に
力を込めた。
「いいよ、僕は。弓月に会えれば
どこだって構わないんだ。それに、
今日は風が冷たいし。ここの方が
ゆっくり珈琲も飲めるよ」
「珈琲?」
「そう」
左のポケットから小さな缶コーヒーを取り
出して、プルトップを開ける。
そして弓月に握らせた。
香ばしい香りがふわと花の匂いを削る。
「図書館の入り口で買ってきたんだ。
ポケットに入れて温めてたから、
まだ、そんなに冷めてないと思う」
にこり、と笑って見せると
つられたように弓月も笑った。
「ほんとだ。あったかい」
缶コーヒーを両手で包み、ゆっくり口元に
寄せる。ひとくち、ふたくち、珈琲を喉に
流し込む度に、弓月の白い喉が小さく動いた。
僕はその様子をじっと眺めながら、
昨夜のことをどう切り出そうか思い悩んでいた。
と、カウンターにポツリと佇む弓月の
姿があった。
会えた-----
僕はまず、そのことにホッとして
頬を緩めた。そしてポケットから手を出すと、
彼女に向けて手を振る。
けれど、弓月は魂が抜けたようにじっと
一点を見つめたまま動かなかった。
すぐ側に立つ僕の存在に、
まったく気付いていない様子だ。
僕は表情を止めて唇を噛むと、
ゆっくり店の扉を開けた。
カラン-----
軽快な音とともに、弓月が弾かれたように
顔を上げる。
「いらっしゃ……」
ドアの前に立つ僕を見て、一瞬、
困ったように表情を曇らせると、
すぐにまたいつものように笑った。
「やだ、お客さんかと思った…」
「ごめん。さっきからそこで手を振って
たけど、気付かないみたいだから」
僕は苦笑いをしながら肩を竦めると
弓月の前に立った。
「うそ、ごめんなさい。
私ったらぼーっとして……」
額に手をあてて、弓月がうな垂れる。
僕はいや、と言って首を振ると、
カウンター越しに身を乗り出して弓月の
頬に触れた。
「まだ具合悪い?今日も顔色が良くないけど」
ひんやりと冷たい手の平を押し付けられた
弓月が、体を硬くしながら小さく頷く。
手の平から伝わる体温はやや熱く、
やはり風邪を引いているようだった。
「頭が痛くて、食欲もないの。
ちょっとフラフラするし……」
「風邪、だろうね。辛いなら座っていた
方がいいよ。ほら」
僕はカウンターの中側にある白木の
丸椅子を引き出して、弓月を座らせた。
「ありがとう」
言われるままに腰を下ろして、ほぅと
息をつく。僕は弓月の前にしゃがみ込むと、
手を握って顔を見上げた。
「ごめんなさい。これじゃ散歩にも
行けないわね」
申し訳なさそうに弓月が顔を歪める。
僕は大きく首を横に振って、握る手に
力を込めた。
「いいよ、僕は。弓月に会えれば
どこだって構わないんだ。それに、
今日は風が冷たいし。ここの方が
ゆっくり珈琲も飲めるよ」
「珈琲?」
「そう」
左のポケットから小さな缶コーヒーを取り
出して、プルトップを開ける。
そして弓月に握らせた。
香ばしい香りがふわと花の匂いを削る。
「図書館の入り口で買ってきたんだ。
ポケットに入れて温めてたから、
まだ、そんなに冷めてないと思う」
にこり、と笑って見せると
つられたように弓月も笑った。
「ほんとだ。あったかい」
缶コーヒーを両手で包み、ゆっくり口元に
寄せる。ひとくち、ふたくち、珈琲を喉に
流し込む度に、弓月の白い喉が小さく動いた。
僕はその様子をじっと眺めながら、
昨夜のことをどう切り出そうか思い悩んでいた。
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