罪の在り処

橘 弥久莉

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第四章:絡みつく真実の糸

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 「という訳で、犯人に紐づくような手掛か
りは何も聞けなかったんだ。申し訳ない」

 「そんな、大変な思いをして訊きに行って
くれただけで十分です。でも」

 「でも?」

 「兄の姓が変わったことを知る方法なんて
ありませんよね?……その、菜乃子さんには」

 「ああ」

 婉曲した物言いをする彼女に、僕は頷く。
 交流会で仮釈放の情報を得たという点と、
卓の恋人であるという点が引っかかっている
のだろう。

 僕は包み隠さず胸の内を語ってくれた菜乃
子さんを思い出しながら、首を振った。

 「ないよ。彼女は絶対に犯人じゃない」

 強い眼差しでそう言い切ると、「ですよね」
と彼女は、深く溜息をついた。

 「ということは、やはり兄がやったという
線が濃厚ということでしょうか?」

 巡り巡ってその結論に達してしまった彼女
に僕が首を捻り、頭を掻き毟ろうとした……
その時だった。

 ジャケットの内ポケットの携帯が振動して、
僕は「ごめん」と、彼女に断り電話を取った。

 「もしもし」

 『悪い。いま大丈夫か?』

 受話器の向こうから、マサの緊張した声が
聞こえてくる。僕は不穏な空気に眉を寄せる
と、彼女に視線を送った。

 「ああ、大丈夫だけど。どうした?」

 マサの声が漏れ聞こえたのだろう。彼女も
表情を強張らせる。僕は彼女にも聞こえるよ
う、携帯をスピーカーに切り替えた。

 『実は今日の夕方、早川すみれから署の方
に連絡があった。夫が行方不明になったとな』

 「行方不明!?」

 『ああ。二日前に職安に行くと言って家を
出たきり、携帯も繋がらないそうだ。彼女は
仮釈が取り消しになることを恐れて今日まで
悩んでいたそうだが、事件に巻き込まれた可
能性もあると考え、警察に連絡を入れてきた』

 早川永輝が行方をくらませた。その事実に
僕たちは目を見開き、互いを凝視する。

 二日前ということは彼女の前に姿を現した
直後に、行方をくらませたと考えるのが妥当
だろう。そのことをマサに伝えると、マサは
受話器の向こうで溜息を吐いた。

 『そういうことは逐一報告しろよ』

 「ごめん、うっかりしてた」

 仕事で忙しかったなどと言い訳は出来ない。
 マサの方がよっぽど忙しいのだ。唇を噛ん
でいる僕の腕を握ると、彼女はマサに訊ねた。

 「あの、もしこのまま戻らなかったら兄は
仮釈放を取り消されてしまうんでしょうか?」

 すみれさんと同じことを心配しそう訊ねた
彼女に、マサは即答する。

 『仮釈中の人間が逃亡しても単純逃亡罪に
は問われないが、尊厳事項である保護司との
面接を怠れば仮釈を取り消されることもある。
いまの段階で法務省が動くことはないがこの
まま連絡がつかないとなると……』

 そこでマサが口籠ると場にどんよりとした
空気が横たわる。
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