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第三章:見えない送り主
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「どうかしら?あたしの字、この手紙の
字に結構似てるんじゃない?」
「似てる!えっ、どうして?」
手紙と伝票を見比べ目を丸くする僕に、
岬さんはやれやれと言いたげに肩を竦める。
僕はまるで迷子になった子どもをあやすよ
うな眼差しを向ける二人に閉口し、ただただ
答えを待ち続けた。
「筆跡ってね、似せようと思えば案外簡単
に真似できてしまうものなのよ。筆圧や止め、
跳ね、はらい。その特徴を掴めば他人の字を
真似て文字を変えることくらい簡単に出来て
しまうの。だから、これが早川永輝本人の字
じゃないと言い切れないし、その奥さんの字
じゃないとも言い切れない。プロに筆跡鑑定
でも頼まない限り、真相は闇の中ってワケ」
「そっか、そうなのか。ああ、もう!何が
何だかわからなくなってきた!」
岬さんの説明に、僕はぐしゃぐしゃと頭を
掻きむしる。考えれば考えるほど手掛かりが
逃げていくようで、サイコロを振ってゲーム
の振り出しに戻ってしまった心地だった。
「まあ、科捜研の鑑定技師ならすぐに見破
れるだろうけどな。鑑定したい原文と照合し
たい人間の直筆資料が三点あれば鑑定できる」
その言葉に僕はピタリと動きを止める。
そして縋るように腕を組む親友を見つめた。
「科捜研に鑑定、頼めないかな?」
「無茶言うな。脅迫文ともとれない内容の
手紙が一通届いたくらいで、警察が動ける訳
ないだろう」
「だよなぁ。頼める訳ないよな」
予想通りの返事に僕は息をつき、ガクリと
肩を落とす。『進展があったら報告する』な
どと威勢のいいことを彼女に言ってしまった
が、進展どころか返って謎が深まってしまっ
たようだった。
「しっかりし給え、ワトソンくん」
岬さんがそう言って、ポンポン、と僕の背
を叩く。その言葉に力なく頷くと、僕は熱々
のホットサンドにかぶりついた。
「それにしてもお前、今回はヤケに入れ込
んでるな。この藤治って女性、このまえ川に
飛び込んで助けたっていう例の彼女だろう?」
「あたしもそう思ってた。もしかして吾都
くん、彼女のこと???」
興味津々といった眼差しを向ける二人に、
僕はホットサンドを咥えたままで、首を振る。
そして濃厚なハムとチーズ、そしてホワイ
トソースが絡んだそれを咀嚼しごくりと飲み
込むと、「彼女は」と、徐に切り出した。
「お兄さんが罪を犯した責任は自分にある、
そんな思いを抱えたまま、いまも苦しんでる。
自分は幸せになっちゃいけない、そう思いな
がら生きてきた人生がどれほど辛かったか、
彼女の暗い瞳を見る度に『助けなきゃ』って
気持ちになるんだ。まだ事件は何も起きてな
いかも知れないけど、相変わらず無言電話は
続いてるし、彼女は不安な日々を過ごしてる。
目の前で苦しんでいる彼女を、僕は放ってお
けないよ。救えなかったアイツの代わりに他
の誰かを救う。僕にはその信念があるから」
字に結構似てるんじゃない?」
「似てる!えっ、どうして?」
手紙と伝票を見比べ目を丸くする僕に、
岬さんはやれやれと言いたげに肩を竦める。
僕はまるで迷子になった子どもをあやすよ
うな眼差しを向ける二人に閉口し、ただただ
答えを待ち続けた。
「筆跡ってね、似せようと思えば案外簡単
に真似できてしまうものなのよ。筆圧や止め、
跳ね、はらい。その特徴を掴めば他人の字を
真似て文字を変えることくらい簡単に出来て
しまうの。だから、これが早川永輝本人の字
じゃないと言い切れないし、その奥さんの字
じゃないとも言い切れない。プロに筆跡鑑定
でも頼まない限り、真相は闇の中ってワケ」
「そっか、そうなのか。ああ、もう!何が
何だかわからなくなってきた!」
岬さんの説明に、僕はぐしゃぐしゃと頭を
掻きむしる。考えれば考えるほど手掛かりが
逃げていくようで、サイコロを振ってゲーム
の振り出しに戻ってしまった心地だった。
「まあ、科捜研の鑑定技師ならすぐに見破
れるだろうけどな。鑑定したい原文と照合し
たい人間の直筆資料が三点あれば鑑定できる」
その言葉に僕はピタリと動きを止める。
そして縋るように腕を組む親友を見つめた。
「科捜研に鑑定、頼めないかな?」
「無茶言うな。脅迫文ともとれない内容の
手紙が一通届いたくらいで、警察が動ける訳
ないだろう」
「だよなぁ。頼める訳ないよな」
予想通りの返事に僕は息をつき、ガクリと
肩を落とす。『進展があったら報告する』な
どと威勢のいいことを彼女に言ってしまった
が、進展どころか返って謎が深まってしまっ
たようだった。
「しっかりし給え、ワトソンくん」
岬さんがそう言って、ポンポン、と僕の背
を叩く。その言葉に力なく頷くと、僕は熱々
のホットサンドにかぶりついた。
「それにしてもお前、今回はヤケに入れ込
んでるな。この藤治って女性、このまえ川に
飛び込んで助けたっていう例の彼女だろう?」
「あたしもそう思ってた。もしかして吾都
くん、彼女のこと???」
興味津々といった眼差しを向ける二人に、
僕はホットサンドを咥えたままで、首を振る。
そして濃厚なハムとチーズ、そしてホワイ
トソースが絡んだそれを咀嚼しごくりと飲み
込むと、「彼女は」と、徐に切り出した。
「お兄さんが罪を犯した責任は自分にある、
そんな思いを抱えたまま、いまも苦しんでる。
自分は幸せになっちゃいけない、そう思いな
がら生きてきた人生がどれほど辛かったか、
彼女の暗い瞳を見る度に『助けなきゃ』って
気持ちになるんだ。まだ事件は何も起きてな
いかも知れないけど、相変わらず無言電話は
続いてるし、彼女は不安な日々を過ごしてる。
目の前で苦しんでいる彼女を、僕は放ってお
けないよ。救えなかったアイツの代わりに他
の誰かを救う。僕にはその信念があるから」
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