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第二章:僕たちの罪
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武弘の母親が校長室に呼ばれたのは、そん
な時だった。受験を前に神経を尖らせている
保護者から、武弘を転校させて欲しいという
直談判があったのだ。多勢に無勢。父兄たち
が集めた署名まで出されれば、母親は首を縦
に振らない訳にはいかない。
この転校請求が決定打となり、武弘は学校
に姿を現さなくなった。
武弘の姿が校内から消えてまもなく、僕と
マサは受験本番を迎えた。旧帝大のトップを
狙うマサと、いくつもの私立大を併願する僕
は共に忙しく、顔を合わせても武弘のことを
口にすることがなくなっていた。
けれど、どちらも志望校に合格し、卒業ま
で残すところあと数日というその日、武弘が
学校に姿を見せる。
――場所は旧校舎の屋上だった。
本校舎と旧校舎がコの字型に建っているこ
ともあり、窓際に座っていた僕の目に武弘の
虚ろな顔がくっきりと映る。
どくりと心臓が跳ねた。
嫌な予感が全身を駆け抜け、冷たいものが
背筋を撫でる。
「あれ、あそこに立ってるの比賀じゃね?」
教室のどこからかそんな声が聞こえた瞬間、
僕は席を立ち、教室を飛び出していた。
けれど卒業式の予行練習を終え、ロング
HRが始まっていた廊下は閑散としていて僕
は一瞬、どこに向かって走ればいいかわから
なくなってしまう。その時、
「こっちだ!!吾都っ!!」
二つ隣の教室から、マサが飛び出してきた。
僕はその声に弾かれるように、彼の背中を
追って走り始めた。バタバタと僕たちの足音
だけが廊下に響き渡り、屋上に続く薄暗い階
段をひたすら駆け上がってゆく。
――どうしてこんなことに。
その言葉だけがずっと頭の中を飛び交って、
ゆき場のない怒りが、後悔が、きつく胸を締
め上げていた。
重い鉄の扉を押し開けてマサと屋上に出る
と、転落防止用のパラペット※に立つ武弘の
背中を見つけた。
「武弘っ!!!」
いまにも飛び降りようとする彼をマサが呼
び止める。すると、武弘は虚ろな表情のまま
こちらを向いた。僕たちは彼を刺激しないよ
う、じりじりと近づきながら手を差し伸べた。
「なにやってんだ、武弘。こっち来いって」
努めて明るく、自然にと思って出した僕の
声は酷く上擦っていた。ゆっくりと武弘が首
を振る。気付けば、彼の頬は涙に濡れている。
「オレにはもう、生きる意味がないんだ。
この世に存在する意味がない」
「なに馬鹿なこと言ってんだ。生きる意味
がないワケないだろ!?お前は何も悪くない。
親父は無実なんだ。こんなことしなきゃなら
ない理由なんてどこにもないじゃないか!」
堪らず語気を強めたマサの声が澄みきった
空に響く。僕はぎこちなく頷くと、また一歩
武弘に近づいた。
※屋上の外周部に立ち上がった低い壁のこと。
な時だった。受験を前に神経を尖らせている
保護者から、武弘を転校させて欲しいという
直談判があったのだ。多勢に無勢。父兄たち
が集めた署名まで出されれば、母親は首を縦
に振らない訳にはいかない。
この転校請求が決定打となり、武弘は学校
に姿を現さなくなった。
武弘の姿が校内から消えてまもなく、僕と
マサは受験本番を迎えた。旧帝大のトップを
狙うマサと、いくつもの私立大を併願する僕
は共に忙しく、顔を合わせても武弘のことを
口にすることがなくなっていた。
けれど、どちらも志望校に合格し、卒業ま
で残すところあと数日というその日、武弘が
学校に姿を見せる。
――場所は旧校舎の屋上だった。
本校舎と旧校舎がコの字型に建っているこ
ともあり、窓際に座っていた僕の目に武弘の
虚ろな顔がくっきりと映る。
どくりと心臓が跳ねた。
嫌な予感が全身を駆け抜け、冷たいものが
背筋を撫でる。
「あれ、あそこに立ってるの比賀じゃね?」
教室のどこからかそんな声が聞こえた瞬間、
僕は席を立ち、教室を飛び出していた。
けれど卒業式の予行練習を終え、ロング
HRが始まっていた廊下は閑散としていて僕
は一瞬、どこに向かって走ればいいかわから
なくなってしまう。その時、
「こっちだ!!吾都っ!!」
二つ隣の教室から、マサが飛び出してきた。
僕はその声に弾かれるように、彼の背中を
追って走り始めた。バタバタと僕たちの足音
だけが廊下に響き渡り、屋上に続く薄暗い階
段をひたすら駆け上がってゆく。
――どうしてこんなことに。
その言葉だけがずっと頭の中を飛び交って、
ゆき場のない怒りが、後悔が、きつく胸を締
め上げていた。
重い鉄の扉を押し開けてマサと屋上に出る
と、転落防止用のパラペット※に立つ武弘の
背中を見つけた。
「武弘っ!!!」
いまにも飛び降りようとする彼をマサが呼
び止める。すると、武弘は虚ろな表情のまま
こちらを向いた。僕たちは彼を刺激しないよ
う、じりじりと近づきながら手を差し伸べた。
「なにやってんだ、武弘。こっち来いって」
努めて明るく、自然にと思って出した僕の
声は酷く上擦っていた。ゆっくりと武弘が首
を振る。気付けば、彼の頬は涙に濡れている。
「オレにはもう、生きる意味がないんだ。
この世に存在する意味がない」
「なに馬鹿なこと言ってんだ。生きる意味
がないワケないだろ!?お前は何も悪くない。
親父は無実なんだ。こんなことしなきゃなら
ない理由なんてどこにもないじゃないか!」
堪らず語気を強めたマサの声が澄みきった
空に響く。僕はぎこちなく頷くと、また一歩
武弘に近づいた。
※屋上の外周部に立ち上がった低い壁のこと。
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