罪の在り処

橘 弥久莉

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第二章:僕たちの罪

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 その言葉を聞き、僕はあることに思い至る。
 僕が心の闇を語ることで、彼女の苦しみを
少しでも和らげることが出来るのではないか、
と。心の傷を共有する、と言えるほどのこと
ではないにしろ、僕の闇を知ることで彼女も
自分のことを話しやすくなるかも知れない。

 僕は心を決めると、布団の上で手を組んだ。

 「あの、藤治さん」

 「はい」

 「もし良かったら、僕の話を聞いてくれま
せんか?少し、長くなってしまうんですけど」

 「話って、もしかして……」

 「はい。僕が儀式をするきっかけになった、
事件のことです」

 一瞬、驚いたように彼女の表情が止まる。
 けれど、すぐに息を整えるように胸に手を
あてると、「聞かせてください」と頷いた。


◇◇◇


――十年前。

 雨上がりの街は、空も風も酷く澄んでいた。
 ところどころアスファルトに残る水溜りに
は、千切れた雲と浅縹色あさはなだいろの爽やかな空が映り
込んでいる。その水溜りを避けるようにしな
がら、僕たちは駅までの道のりを歩いていた。

 すると突然、背後から駆けてくる足音と共
に、聞き慣れた声がした。

 「とべ!キリン!待ちやがれっ!!」

 その声に思わず立ち止まった瞬間、バシッ、
バシッ、と硬い音がして、僕たちの尻に鈍い
痛みが走る。

 「ってーな!!何すんだよ、武弘たけひろっ!!」

 手加減というものを知らない親友の一撃に
ブチキレながら振り向くと、マサは素早く彼
の手からビニール傘を取り上げた。

 「へっへーん♪お前らがオレを置いてくか
ら一発お仕置きしてやったんだよ。下駄箱で
待ってるって約束したじゃねーか!」

 「待ってたのに来なかったから先に歩いて
ただけだろ。あ、マサ、傘曲がってる!」

 「マジかよ、コイツ。信じらんねぇ!」

 緩やかにカーブしている傘の中棒を指差し
て僕が目を丸くすると、マサは尻を擦りなが
ら眉間に深いシワを寄せた。

 「あ、わりぃ。ちょっと痛かった?」

 その傘とマサの悍ましい顔を交互に見ると、
武弘は猫撫で声で言って、僕たちの肩にぶら
下がる。少々節度がなく、調子に乗りやすい
ところが武弘の欠点なのだ。が、そんなこと
は百も承知で付き合っている僕たちは、拳を
握り締めると同時に言い放った。

 「次やったら、コロス!!」

 「許して、ちょんまげっ♡」

 昭和を彷彿させるノスタルジックな死語で
するりと怒りを交わすと、武弘はまるでそこ
が定位置のように僕とマサの間を歩き始めた。

 僕たち三人は『親友』と呼べる間柄だった。
 小柄な武弘を挟んで、僕とほとんど目線が
変わらない木林誠道きばやしまさみちとは小学校低学年からの
長い付き合いで、互いを『マサ』、『吾都』と
呼び合う仲だ。そして長身の僕たちに負けじ
と胸を張って歩く武弘、こと比賀武弘ひがたけひろは、
高校の入学式で意気投合して以来ずっと、
クラスが代わってもいつも一緒だった。
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