転生公爵令嬢が、親友と姉妹になろうと頑張った結果

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　領地に帰る準備が、本格的に始まった。
　私も王都でしか手に入らないものを買いに、侍女姿でアンナと一緒に街に出ていた。

　一番の目当ては、織物を製作する工房だ。
　この工房にはずっとお世話になっていて、主に柄物の布を特注で作ってもらっている。

　布は文化を表すと言うように、この国にはこの国ならではの織物が存在する。
　でも存在しないものもある。
　特に可愛い柄物や、当たり前だが和柄というのが全く存在しないように思われた。

　例えばフルーツ柄や動物柄、そして七宝しっぽうや青海波せいがいは等だ。
　無地の布地に自分で刺繍をする、という方法はある。
　しかし布自体が柄になっているというものが欲しかったので、それを特注で作ってもらったのが始まりだ。

　実はひそかに、愛犬とお揃いの服作りが趣味なのだ。
　今回はお店の方と相談して、かわいいアヒル柄の布などを注文し、前回注文した分は届けてもらうことにしてお店を出た。


　アンナは家族や同僚へ、お菓子のお土産を色々と買っていた。
　私はあまり頻繁に出歩けないのもあって、活気あふれる街の雰囲気を楽しんでいた。

　私がきょろきょろと街を見ていると、
　「エミリア様、あちら」とアンナが小声で方向指示をした。

　そこには暴れん坊中納言リスペクトで始めた、若旦那姿で1人歩くヴィンセント様がいた。

　『暴れん坊中納言』というのは、シーズン10以上続く日本国民に大人気の国民的ドラマだ。

　白馬に乗った中納言様が、市井に交じり旅をしながらお供のスケさん、ソウさん、タラさんと共に世の不正を正していく痛快アクション時代劇。

　毎回必ず中納言様が入浴するサービスシーンがあり、世の女性達は胸を熱くしていた。
　確か、中納言様の入浴シーンだけを集めたお宝DVDも発売されていたはずだ。

　例に漏れず、私も暴れん坊中納言が大好きだった。
　そして幼い頃、寝ている私が見ていた夢のほとんどに暴れん坊中納言が出てきた。

　知能も年齢相応だった私は、見た夢の内容を祖母の家（隣国のカンデスという国）で見た演劇と混同して暴れん坊中納言の話を皆にしていた。

　夢と現実の、区別がつきにくい子供だったのだ。

　単純腕白少年だったヴィンセント様は、自分も市井に出て世にはびこる悪を裁くと息巻いていた。
　それを現実化させたのが、この若旦那モードだ。


　若旦那モードのヴィンセント様に会えるなんて、今日の私はついている。

　ヴィンセント様は金髪と青い目に甘めで華やかなお顔という、私の中の王子さまイメージのど真ん中を行く見た目をしている。

　今日は商人風の恰好をしているけれど、やはり人目を引いてしまっているようだった。
　街の娘さんたちが熱い視線を送っている中、私は意を決してアンナと一緒にヴィンセント様に近づいて行った。