新米公爵令嬢の日常

国湖奈津

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欲望

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晩餐を終えた私は、ウキウキとハロルドの休んでいる部屋に向かった。

ついついスキップしながら来てしまったけれど、これは病人に対する態度としてふさわしくない。
私は扉の前で立ち止まり、真面目な顔を作った。

「入るわね」
ひと言声をかけて扉を開く。

ハロルドの使っている部屋は、最上級のゲストルームだった。

今は他にお客様がいないので、ハロルドが最も身分の高いお客様には違いないのだけれど、少し奮発しすぎのように感じる。

重厚な深紅とゴールドで統一された部屋は病人の部屋としてふさわしくないような…。

こんな部屋で心休まるだろうか?
それに無駄に広いので寝室まで距離があり、看病に適さない。

(この部屋に決まっちゃったんだからしょうがないわ)
文句を言いたくなる気持ちを抑え、私は寝室の扉を開いた。

ハロルドはベッドの上で体を起こし書類に目を通していた。
部屋に入ったのが私だと気づき書類を背中に隠したのを、私は見逃さなかった。

「寝てなくて大丈夫なの?」
「あなたこそ、夜もお勉強では?」

私は背中に隠した書類を覗き込もうとしたけれど、ハロルドは体で隠した。

無理に見ようとは思っていない。
私は追及の手を止めた。

「おばあ様が、知らない人間に看病されるよりは安心だろうからって私にあなたの看病を任せてくれたの。私がつきっきりで看病するから、ハロルドは安心して寝て?」

私は腕を伸ばし、ハロルドの額に手を当て自分と比べた。
それほど体温は上がっていないようで安心する。

「さぁ、寝て」
ハロルドの肩に手を置き、ベッドの中に押し込めるように力を入れると、彼は自分からベッドに横になってくれた。

冷気が中に入らないよう、上掛けを首まですっぽり覆うようにかける。

ベッド脇に用意された盥の水でタオルを絞り、額に乗せた。
とりあえずやることは終わった。

ベッド脇の椅子に座り、ハロルドの寝顔を見つめる。
伏せられたまつげの長さと滑らかな頬、高い鼻梁。

(ハロルドの目ってほんの少し垂れ気味なのよね。そこがまた良くて…)
見つめているだけなのにときめきが止まらない。
心臓がどきどきしてきた。

思い起こしてみても、普段から身体に気を付けているハロルドが寝込んだことなど今までなかった。
初めて(?)体調を崩したのがここで、その上看病まで任されて、とても幸せだ。

ついニコニコしてしまった自分に気づき頬に手を当て横に引っ張った。

顔の皮膚を手で横に引き延ばしたままうっとり見つめていると、ハロルドの目がぱちりと開いた。

「そんなに見つめられていると眠れないのですが」
ハロルドは苦笑している。

「そ、そうよね。ごめんなさい。じゃあ、私は隣の部屋にいるから何かあったら声をかけてくれる?」

眠ったものだと思って、好き放題してしまっていた。

私は看病に来ているのだ。
自分の欲望を満たしているわけにはいかない。

立ち上がり、私は部屋を出ようとした。

「待ってください。急に寒気がしてきました」
ハロルドは起き上がり、私に手を伸ばした。

「大変だわ!これから熱が上がるのかも」

私はもう1度ハロルドの額に手を当て顔を覗き込む。
今はまだ額は熱くなっていないし、顔も赤くなっていない。

けれど寒気がしているのは高熱の出るサインだ。
医師を呼んできた方がいいだろう。

「待ってて、お医者様を呼んでくるから。温石や掛ける物ももらってきた方がいいわよね」
私は行こうとしたのだけれど、強い力で腕を引かれた。

「どうしたの?」
驚いて私はハロルドを見た。

「寒くて、とても待っていられません。あなたが温めてください」
そう言うと、ハロルドは私の身体をベッドの中に引き入れた。
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