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来ちゃった
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和やかな雰囲気に口元をほころばせていると、かすかに“エレノア”と呼ぶ声が聞こえてきた。
(まさかね)
と思いつつ声のする方を振り向くと、1人の少女が走ってこちらに向かっている。
駆ける少女は人々の視線を集めていた。
嫌な予感がして、私は視線を少女から逸らせた。
「エレノア、あの方、お友達?」
セルマは少女に気づいたようだ。
「さぁ?」
とりあえず とぼけることにした。
「でも『エレノア』ってあなたの名前を呼びながらこっちに来るわよ?」
「エレノアなんて、どこにでもいる平凡な名前だし、私ではないでしょ」
言ったものの、少女は確実に私をめがけて走ってきている。
この場を去ることに決めた。
「ちょっと、歩いてくるわ」
そそくさと立ち上がった時、少女が私に向かってダイブし、勢いよく抱きついた。
少しバランスを崩したものの、持ち前の筋力ですぐに体勢を立て直した。
「来ちゃった。どう?可愛いでしょ?」
少女はスカートをつまみ、私の前でくるりと回転してみせた。
少女の薄桃色のデイドレスは、花の刺繍がされたオーガンジーが表面を飾る凝ったデザインになっている。
「可愛い。可愛い…けど…」
(オーエン、なんで女装しているの!!??)
聞きたかったけれど、バーバラとセルマがいる手前、言葉を飲み込んだ。
女装したオーエンは、もとから可愛らしい顔立ちだったこともあり、どこからどう見ても女の子のように見える。
男らしさが出がちな首はドレスのデザインで隠され、手はレースの手袋で繊細にカモフラージュされていた。
「やっぱりエレノアのお友達だったのね?」
セルマとバーバラは立ち上がり、オーエンに紹介するよう促している。
「ええと、こちらはオ、オー、オーロラ」
『お前は今からオーロラだ』という目力を込めて、私はオーエンを見た。
オーエンは私の迫力に押されたのか、理解したとばかりに何度もうなずいている。
「オーロラ、こちらはセルマで、こっちはバーバラよ」
私は場をやり過ごそうと、頑張って役割をこなす。
「どういったお友達なの?」
セルマは興味津々な様子でオーエンとの話を求めてきた。
「えっと、そう!おばあ様のお兄様の奥さんの妹の孫娘で、遠い親戚なのよ。普段はレナント国に住んでるんだけど、今だけ遊びに来てるの」
『今だけ』というところを強調した。
これでオーエンにも二度はないということが伝わるだろう。
「そうなのねぇ。クープマン公爵夫人のお兄さんの奥さんの妹の孫娘…。ということは、2人は血がつながってないのね。納得」
セルマは私とオーエンを見比べている。
私は女性の中でも背が小さめなのに対し、オーエンは成長期を迎え背が伸びているため女性だとするとかなり背が高い。
「私の背が低いと言いたいの?」
私は不機嫌に目を眇めた。
「いいじゃない。可愛いんだから。そうだわ!今日は画家を連れてきたの。集まった記念に絵を描いてもらいましょう」
セルマは画家を呼びに行った。
(まさかね)
と思いつつ声のする方を振り向くと、1人の少女が走ってこちらに向かっている。
駆ける少女は人々の視線を集めていた。
嫌な予感がして、私は視線を少女から逸らせた。
「エレノア、あの方、お友達?」
セルマは少女に気づいたようだ。
「さぁ?」
とりあえず とぼけることにした。
「でも『エレノア』ってあなたの名前を呼びながらこっちに来るわよ?」
「エレノアなんて、どこにでもいる平凡な名前だし、私ではないでしょ」
言ったものの、少女は確実に私をめがけて走ってきている。
この場を去ることに決めた。
「ちょっと、歩いてくるわ」
そそくさと立ち上がった時、少女が私に向かってダイブし、勢いよく抱きついた。
少しバランスを崩したものの、持ち前の筋力ですぐに体勢を立て直した。
「来ちゃった。どう?可愛いでしょ?」
少女はスカートをつまみ、私の前でくるりと回転してみせた。
少女の薄桃色のデイドレスは、花の刺繍がされたオーガンジーが表面を飾る凝ったデザインになっている。
「可愛い。可愛い…けど…」
(オーエン、なんで女装しているの!!??)
聞きたかったけれど、バーバラとセルマがいる手前、言葉を飲み込んだ。
女装したオーエンは、もとから可愛らしい顔立ちだったこともあり、どこからどう見ても女の子のように見える。
男らしさが出がちな首はドレスのデザインで隠され、手はレースの手袋で繊細にカモフラージュされていた。
「やっぱりエレノアのお友達だったのね?」
セルマとバーバラは立ち上がり、オーエンに紹介するよう促している。
「ええと、こちらはオ、オー、オーロラ」
『お前は今からオーロラだ』という目力を込めて、私はオーエンを見た。
オーエンは私の迫力に押されたのか、理解したとばかりに何度もうなずいている。
「オーロラ、こちらはセルマで、こっちはバーバラよ」
私は場をやり過ごそうと、頑張って役割をこなす。
「どういったお友達なの?」
セルマは興味津々な様子でオーエンとの話を求めてきた。
「えっと、そう!おばあ様のお兄様の奥さんの妹の孫娘で、遠い親戚なのよ。普段はレナント国に住んでるんだけど、今だけ遊びに来てるの」
『今だけ』というところを強調した。
これでオーエンにも二度はないということが伝わるだろう。
「そうなのねぇ。クープマン公爵夫人のお兄さんの奥さんの妹の孫娘…。ということは、2人は血がつながってないのね。納得」
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私は女性の中でも背が小さめなのに対し、オーエンは成長期を迎え背が伸びているため女性だとするとかなり背が高い。
「私の背が低いと言いたいの?」
私は不機嫌に目を眇めた。
「いいじゃない。可愛いんだから。そうだわ!今日は画家を連れてきたの。集まった記念に絵を描いてもらいましょう」
セルマは画家を呼びに行った。
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