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追跡者
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応接室ではリンダが待っていた。
「エレノア様、気づきました?」
「ええ。騎馬が一騎、馬車の後をつけてきていたわね」
「はい。どうなさいますか?」
「そうね。前回と同様、山道に入ってみましょうか」
「相手が1人とはいえ危険では?」
「御者はレオンだし、多分大丈夫だと思うけど、一応護身用の武器を持ちましょうか」
「はい」
私はバーバラをリリー先生に託し、怪しい騎馬に対処することに決めた。
馬車に乗り込み、計画通り山道に向かう。
思っていた通り、騎馬が馬車の後をついてきている。
山道に入っても、騎馬は間合いを詰めることなく間を開けて後をついてくる。
「何が目的なんでしょうか?今回はただ後をつけているだけで襲撃しては来ないのでしょうか?」
リンダは騎馬の様子を伺いながら思案している。
「ここならだれにも迷惑をかけなそうだし、ちょっと止まって直接聞いてみる?」
私はレオンに声をかけ、馬車を止めた。
「騎馬も止まっているようです。近づいてきません」
「そうね」
馬車の中から外の様子を伺ってみたけれど、騎馬は距離を保ち木陰で休んでいるようだ。
「私が探りを入れてみますので、お2人は馬車の中にいてください」
レオンは馬車の中に声をかけると、騎馬の方に歩いて行った。
レオンを見守る。
追跡者に声をかけたレオンは、何やら話しているようだ。
急に追跡者がこちらに向かって走り出し、レオンも追跡者の後を追った。
「こちらに来ます」
「武器を」
私たちは武器を手に取り馬車の中で身構えた。
「エレノア!エレノア!」
追跡者は全力で馬車に駆け寄ると、馬車の扉を叩きながら私の名を叫んだ。
『まずい。オーエンだわ』
とっさにしゃがんで身をかがめ、口パクで緊急事態を伝えながらリンダを見上げる。
「どうなさいます?」
『とにかく、見つからないようにしないと。ど、どうする?どうしよう?』
「落ち着いてください。とりあえず、椅子の中にお隠れください。私が対処します」
『了解』
私は隠れられるようになっている椅子を開き、中に身を隠した。
「まぁ、オーエン様ではありませんか?どうなさいました?」
リンダは馬車の扉を開け、外に出て行った。
「エレノアは?」
「いらっしゃいません。オーエン様はご存じなかったんですね。エレノア様は重い病を患い寝込んでらっしゃいます」
「知ってるよ、そんなことくらい。でもエレノアを見たっていう奴がいたし、それに俺もエレノアに似た人がこの馬車から降りるのを見たんだ」
ちょっと高めのオーエンの声が聞こえてくる。
「エレノア様に会いたくて見た幻覚でしょうね。私もたまに見るんです。お元気だったころのエレノア様の幻覚を」
リンダはオーエンに話を合わせているらしい。
椅子の下に隠れて2人の声を聞きながら、私はリンダの嘘の上手さに拍手を送っていた。
「この馬車は、クープマン公爵家の馬車でしょ?なんでリンダとレオンがこの馬車に乗ってるわけ?」
「私は看護の知識がありません。エレノア様が病に倒れられた今、侍女の私はエレノア様の役に立つことができず、お屋敷を辞してクープマン公爵家に再就職したんです。レオンさんも同じような感じでしょう。ここにエレノア様はいらっしゃいませんし、オーエン様もお家に帰ってください」
「分かった。馬車の中を見てもいいい?みるだけ」
脳裏にウルウルした瞳で見つめてくるオーエンの顔が浮かんだ。
あの顔をされると、何でも言うことを聞いてあげたくなる。
オーエンは街で最も可愛いと言われる少年(16)で、自分の可愛さに人が逆らえないことも知っているため性質が悪い。
(断って。お願い)
私は心の中で願った。
「エレノア様、気づきました?」
「ええ。騎馬が一騎、馬車の後をつけてきていたわね」
「はい。どうなさいますか?」
「そうね。前回と同様、山道に入ってみましょうか」
「相手が1人とはいえ危険では?」
「御者はレオンだし、多分大丈夫だと思うけど、一応護身用の武器を持ちましょうか」
「はい」
私はバーバラをリリー先生に託し、怪しい騎馬に対処することに決めた。
馬車に乗り込み、計画通り山道に向かう。
思っていた通り、騎馬が馬車の後をついてきている。
山道に入っても、騎馬は間合いを詰めることなく間を開けて後をついてくる。
「何が目的なんでしょうか?今回はただ後をつけているだけで襲撃しては来ないのでしょうか?」
リンダは騎馬の様子を伺いながら思案している。
「ここならだれにも迷惑をかけなそうだし、ちょっと止まって直接聞いてみる?」
私はレオンに声をかけ、馬車を止めた。
「騎馬も止まっているようです。近づいてきません」
「そうね」
馬車の中から外の様子を伺ってみたけれど、騎馬は距離を保ち木陰で休んでいるようだ。
「私が探りを入れてみますので、お2人は馬車の中にいてください」
レオンは馬車の中に声をかけると、騎馬の方に歩いて行った。
レオンを見守る。
追跡者に声をかけたレオンは、何やら話しているようだ。
急に追跡者がこちらに向かって走り出し、レオンも追跡者の後を追った。
「こちらに来ます」
「武器を」
私たちは武器を手に取り馬車の中で身構えた。
「エレノア!エレノア!」
追跡者は全力で馬車に駆け寄ると、馬車の扉を叩きながら私の名を叫んだ。
『まずい。オーエンだわ』
とっさにしゃがんで身をかがめ、口パクで緊急事態を伝えながらリンダを見上げる。
「どうなさいます?」
『とにかく、見つからないようにしないと。ど、どうする?どうしよう?』
「落ち着いてください。とりあえず、椅子の中にお隠れください。私が対処します」
『了解』
私は隠れられるようになっている椅子を開き、中に身を隠した。
「まぁ、オーエン様ではありませんか?どうなさいました?」
リンダは馬車の扉を開け、外に出て行った。
「エレノアは?」
「いらっしゃいません。オーエン様はご存じなかったんですね。エレノア様は重い病を患い寝込んでらっしゃいます」
「知ってるよ、そんなことくらい。でもエレノアを見たっていう奴がいたし、それに俺もエレノアに似た人がこの馬車から降りるのを見たんだ」
ちょっと高めのオーエンの声が聞こえてくる。
「エレノア様に会いたくて見た幻覚でしょうね。私もたまに見るんです。お元気だったころのエレノア様の幻覚を」
リンダはオーエンに話を合わせているらしい。
椅子の下に隠れて2人の声を聞きながら、私はリンダの嘘の上手さに拍手を送っていた。
「この馬車は、クープマン公爵家の馬車でしょ?なんでリンダとレオンがこの馬車に乗ってるわけ?」
「私は看護の知識がありません。エレノア様が病に倒れられた今、侍女の私はエレノア様の役に立つことができず、お屋敷を辞してクープマン公爵家に再就職したんです。レオンさんも同じような感じでしょう。ここにエレノア様はいらっしゃいませんし、オーエン様もお家に帰ってください」
「分かった。馬車の中を見てもいいい?みるだけ」
脳裏にウルウルした瞳で見つめてくるオーエンの顔が浮かんだ。
あの顔をされると、何でも言うことを聞いてあげたくなる。
オーエンは街で最も可愛いと言われる少年(16)で、自分の可愛さに人が逆らえないことも知っているため性質が悪い。
(断って。お願い)
私は心の中で願った。
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