新米公爵令嬢の日常

国湖奈津

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身の上

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馬車に揺られながら私は外を見つめていた。
怒りは長く続かず、悲しみに変わっていた。

「お嬢様、そう悲しまれないでください」

「別に悲しんでなんかない。ただ恋人がいるなら話してくれればよかったのにっておもっただけ」

「まだ恋人がいると決まったわけではないと思います」

「じゃあ、怪我をすると心配する、家族に近い存在って何よ?」

尋ねてみると、リンダは言葉に詰まってしばらく考え込んだ。

「そうですね。私の場合はフラッフィーでしょうか?」
フラッフィーというのは、リンダの実家で可愛がっている猫だ。

考えた末に、恋人以外の存在をひねり出したらしい。

「フラッフィーはリンダのこと心配するの?」

「私が帰ると、高確率で玄関で出迎えます。知らない人が訪ねてくると、玄関が開く前に物陰に隠れるんですよ」

「ハロルドって動物飼ってたかしら?」

「さあ。何分ご自分のことを話されない方ですし。そもそもストラット家で働く人たちは身の上話をしませんからねぇ」

ストラット家で働く者の中には、運営する孤児院出身者も多く、自然と家族の話は避けがちだ。

自分から家族の話をする者には、こちらも話を振ることがあるけれど、そんなことは稀だ。

「気になるなら聞いてみればよかったんですよ」
「それは…怖いわ…」

確かに聞いてしまえば、全てが明らかになるかもしれない。
でもそんなことをしたら、この気持ちは全て封印しなければならないものになるかもしれないのだ。

「お嬢様…。で、でもハロルド様って不思議な方ですよね。なぜか様付けしたくなる雰囲気をお持ちです。子供たちもピーター様のことはピーターなんて呼んで親しんでいるのに、ハロルド様のことはルド様って呼んでましたし。ご本人も特に訂正されませんし」

リンダは場を和ませるためか、明るい声で話の方向を変えた。

「私の予想では、たぶんハロルドはリリー先生と似た境遇だと思うわ。いつから一緒に遊んでいたのか、今となっては記憶が定かでないけれど、最初に会ったころは上等な服を着てピーター達と走り回っていた。遊んでいたのも夏場だけだったから、きっと寄宿舎に入っていたんじゃないかと思うの。貴族の男の子はみんな入るでしょ?」

特に詮索したわけではないけれど、長年の間に感じたことから導き出したことを話してみた。

「ハロルド様が貴族だと言われても驚きませんね」
リンダは納得の表情を見せた。

「だんだんとハロルドの服装は下町風に変わっていって、今ではピーターのそばで働いている。だからリリー先生のご実家のように家が没落してしまったのかな、なんて思ってて…。いずれにせよ身の上話は聞きにくいわ」

「そうですよねぇ」

私たちは馬車に揺られながら、ぼんやりと外の景色に目を向けた。
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