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久々
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大広間では、ちょうどダンスの時間が終わりに差し掛かっていた。
キャロルとルーシーは出口近くにむかった。
ここにいれば出て行くフランツの後を、いち早く追いかけることができるだろうと考えてのことだ。
思っていた通り、ダンスパートナーの役目を終えたフランツが2人の前を通り大広間から出て行く。
一呼吸おいて、2人も広間から出た。
どちらに行ったか確認するため左右を確認するが、すでにフランツの姿はなかった。
代わりに、少女の集団が足早に移動しているのが見えた。
「もしかして、あっちに行ったのかしら?」
ルーシーはキャロルと目を見合わせ、少女の集団の後を追った。
走るわけにはいかないので、速足で歩く。
角を右に曲がると、少女の集団がきょろきょろ周りを見回していた。
どうやらフランツを見失ってしまったようだ。
ルーシーとキャロルが歩いてくるのに気付き、少女たちは道を譲った。
「失敗しちゃったわね」
ルーシーは小声でキャロルに話しかけた。
「成功した人はいないみたいだから、気長に行きましょう」
キャロルの言葉に、ルーシーはうなずいた。
「それにしても、どうしようかしら。この先は行き止まりだし、引き返すのはあの方たちに『何してるんだ?』と思われそうだし」
「そうね、あの窓から庭を見るために来た、ということにしましょうか」
行きどまりの場所には窓があり、庭が見えるようになっている。
夜遅いけれど、今日は満月なので庭の景色もよく見える。
2人が庭を眺めているふりをしていると、少女たちは諦めて来た道を引き返していった。
「あの方たちは広間の外で待っていたのね、きっと。中で待っているのではとても追いつけないんだわ」
ルーシーは今日の反省をした。
この反省を次に活かそう。
「そうね、次は外で待つ?でも立場上、ルーシーにはあからさまに追いかけることはできないでしょう?普通に部屋に呼び出せば?」
「特に用もないのにお仕事中に呼び出すなんてできないわ」
そのせいで、いままでフランツに会えずにいた。
「では、夜会の時に話しかけて、この後部屋に来てって頼むのは?」
「な、そんな大胆なことできないわ。それにそんなことしたら、絶対にお父様に報告が入って、彼に迷惑をかけることになるかもしれないし…」
ルーシーは赤くなったり青くなったりしている。
その時、2人の話していた近くで、ギィと小さい音がした。
振り返ると廊下の壁が向こう側に開いている。
しばらくしてフランツが顔を出した。
「私に用がおありですか?」
ルーシーがうなずくと、フランツは2人を部屋に招き入れた。
招かれた中は広い寝室になっていて、大きな天蓋付きのベッドが置かれている。
内装は落ち着いた紺色で統一され、洗練された雰囲気だ。
フランツに導かれて寝室を抜けると、隣は応接室になっていた。
「ここはクールガー侯爵家に与えられた部屋なのです。先ほどの扉は有事の際の隠し扉なのですが、私は頻繁に利用しておりまして…」
有力貴族には、王宮の中に部屋が与えられている。
フランツは追いかけてくる少女たちを巻くために、隠し扉を利用していたのだろう。
「もしかして、私たちの会話を聞いていましたか?」
キャロルはフランツに話しかけた。
「廊下で話している分には聞こえないのですが、あの窓の所で話している会話は先ほどの寝室に筒抜けです。仮眠を取ろうとしたらお2人の会話が聞こえてきて、もしや私に用があるのではと」
フランツは事情を説明した。
盗み聞きしていたというわけではないらしい。
「姫、もしやお身体が今もお辛いのですか?」
フランツはルーシーを見ていた。
フランツに対する恋心を自覚してから、こんなに近くで彼に会うのは初めてだ。
ルーシーの頬に熱が集まってくる。
「えっと、私はお邪魔だろうから、帰るわね」
キャロルは気を利かせて、正式な扉の方に向かった。
「お待ちください。あなたは全てご存じなのですか?」
フランツはキャロルを引きとめた。
「ええ」
「できれば30分、いえ1時間後にこの部屋に来ていただけませんか?私には女性のドレスの構造が分かりませんので」
「わ、分かったわ」
キャロルは請け負い、部屋から出て行った。
キャロルとルーシーは出口近くにむかった。
ここにいれば出て行くフランツの後を、いち早く追いかけることができるだろうと考えてのことだ。
思っていた通り、ダンスパートナーの役目を終えたフランツが2人の前を通り大広間から出て行く。
一呼吸おいて、2人も広間から出た。
どちらに行ったか確認するため左右を確認するが、すでにフランツの姿はなかった。
代わりに、少女の集団が足早に移動しているのが見えた。
「もしかして、あっちに行ったのかしら?」
ルーシーはキャロルと目を見合わせ、少女の集団の後を追った。
走るわけにはいかないので、速足で歩く。
角を右に曲がると、少女の集団がきょろきょろ周りを見回していた。
どうやらフランツを見失ってしまったようだ。
ルーシーとキャロルが歩いてくるのに気付き、少女たちは道を譲った。
「失敗しちゃったわね」
ルーシーは小声でキャロルに話しかけた。
「成功した人はいないみたいだから、気長に行きましょう」
キャロルの言葉に、ルーシーはうなずいた。
「それにしても、どうしようかしら。この先は行き止まりだし、引き返すのはあの方たちに『何してるんだ?』と思われそうだし」
「そうね、あの窓から庭を見るために来た、ということにしましょうか」
行きどまりの場所には窓があり、庭が見えるようになっている。
夜遅いけれど、今日は満月なので庭の景色もよく見える。
2人が庭を眺めているふりをしていると、少女たちは諦めて来た道を引き返していった。
「あの方たちは広間の外で待っていたのね、きっと。中で待っているのではとても追いつけないんだわ」
ルーシーは今日の反省をした。
この反省を次に活かそう。
「そうね、次は外で待つ?でも立場上、ルーシーにはあからさまに追いかけることはできないでしょう?普通に部屋に呼び出せば?」
「特に用もないのにお仕事中に呼び出すなんてできないわ」
そのせいで、いままでフランツに会えずにいた。
「では、夜会の時に話しかけて、この後部屋に来てって頼むのは?」
「な、そんな大胆なことできないわ。それにそんなことしたら、絶対にお父様に報告が入って、彼に迷惑をかけることになるかもしれないし…」
ルーシーは赤くなったり青くなったりしている。
その時、2人の話していた近くで、ギィと小さい音がした。
振り返ると廊下の壁が向こう側に開いている。
しばらくしてフランツが顔を出した。
「私に用がおありですか?」
ルーシーがうなずくと、フランツは2人を部屋に招き入れた。
招かれた中は広い寝室になっていて、大きな天蓋付きのベッドが置かれている。
内装は落ち着いた紺色で統一され、洗練された雰囲気だ。
フランツに導かれて寝室を抜けると、隣は応接室になっていた。
「ここはクールガー侯爵家に与えられた部屋なのです。先ほどの扉は有事の際の隠し扉なのですが、私は頻繁に利用しておりまして…」
有力貴族には、王宮の中に部屋が与えられている。
フランツは追いかけてくる少女たちを巻くために、隠し扉を利用していたのだろう。
「もしかして、私たちの会話を聞いていましたか?」
キャロルはフランツに話しかけた。
「廊下で話している分には聞こえないのですが、あの窓の所で話している会話は先ほどの寝室に筒抜けです。仮眠を取ろうとしたらお2人の会話が聞こえてきて、もしや私に用があるのではと」
フランツは事情を説明した。
盗み聞きしていたというわけではないらしい。
「姫、もしやお身体が今もお辛いのですか?」
フランツはルーシーを見ていた。
フランツに対する恋心を自覚してから、こんなに近くで彼に会うのは初めてだ。
ルーシーの頬に熱が集まってくる。
「えっと、私はお邪魔だろうから、帰るわね」
キャロルは気を利かせて、正式な扉の方に向かった。
「お待ちください。あなたは全てご存じなのですか?」
フランツはキャロルを引きとめた。
「ええ」
「できれば30分、いえ1時間後にこの部屋に来ていただけませんか?私には女性のドレスの構造が分かりませんので」
「わ、分かったわ」
キャロルは請け負い、部屋から出て行った。
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