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買い物
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子供のころからルーシーは双子の兄の後をついて遊んでいた。
今回のようにお忍びで街に行く2人に一緒に連れて行ってもらったこともある。
そのたび2人は、もし見つかったらルーシーを首謀者にすると言って脅すのだ。
何度も見つかり、そのたびに両親に叱られた。
『ルーシーが連れて行けとうるさいから、俺たちは行きたくなかったけど仕方なく街に行った』
と、双子は毎回言い訳をするけれど、それを信じるような両親ではないのでルーシーは安泰だ。
2人は騎馬で出かけようとしていたようだが、ルーシーがいたせいで、馬車での外出になった。
ポールが御者役を引き受けている。
「お前はどこに行きたいんだ?」
車内にいるサイモンがルーシーに話しかけた。
「私は極東の薬湯を扱っているお店に行きたいの」
「あぁ、あの店か」
サイモンに伝わったらしい。
ホリーが旅行のために手に入れた薬湯は、旅行の間に使い切った。
旅行から帰ってから、ルーシーの体に異変が起きなくなった。
何が原因なのか分からないけれど、薬湯が怪しいという考えがルーシーの頭にある。
旅行中毎日摂取していたもので、旅行から帰って摂取しなくなったものが薬湯くらいしかないのだ。
多くの侍女が飲んだことがある流行りの薬湯だというので全く疑っていなかったけれど、ルーシーには合わないということもあるかもしれない。
もう一度薬湯を飲んでみて、体に異変が起きれば原因と特定できるのではないかと考えている。
薬湯が原因かどうか確かめるために、薬湯を手に入れたいと思っていた。
ちょうどそこに出かける双子を見つけた。
絶好の機会だ。
ルーシーは店の前で下ろされた。
「いいか、俺たちが迎えに来るまで店で待ってるんだぞ」
ポールはルーシーに念を押すと、馬車を走らせた。
下ろされたのは、見たことのない文字で書かれた看板を掲げた店だった。
金の縁取りのある赤い看板に、絵のような黒い文字が書かれている。
ガラスを通し中の様子が見える。
入り口には金でできた人形が来客を出迎えていた。
人形の頭は鷹のような鳥で、体は人の身体だ。
初めてくる店の圧倒的な異国情緒に面食らってしまい、きょろきょろと店を見回す。
東国の陶磁器や絵画が飾られている。
売り物でもあるようだ。
「何かお探しですか?」
店の男性がルーシーに声をかけた。
「薬湯がほしいのですが…」
「どちらの薬湯でしょうか?色々種類がございますが」
男性はルーシーを店の奥に導いた。
店の奥にはカウンターと椅子が置かれている。
ルーシーを椅子に座らせると、男性はカウンターの中に入った。
カウンターの後ろは ずらりと引き出しが並べられている。
「薬湯ってどんな種類があるんですか?」
ルーシーは男性に尋ねた。
「難しい質問です。本来薬湯は1人1人に合わせておつくりするので、人の数だけあるということもできます。しかしこちらの国で人気なのは10種類ほどでしょうか」
「1人1人に合わせて作るとは、どういうことですか?」
ルーシーが質問すると、男性は後ろの引き出しを取り出しルーシーの前に出した。
引き出しの中には、乾燥した草や木の根、葉や実が入っていた。
見るもの全てが初めてで珍しく、ルーシーは目を輝かせた。
「例えばこちらの星の形をした薬草は、ほてりを取ると言われています。夏の暑い日に飲んでいただく場合や、お怪我をなさったお客様にはこの薬草を入れて薬湯をおつくりします。それから、こちらの細長い薬草は、滋養強壮によいと言われております。お疲れのお客様、風邪をひかれたお客様にはこの薬草を入れて薬湯をお作りします。この2つはそれだけで飲むととても苦いので、他の薬草で効能や味を調えます」
丁寧に説明を受け、奥の深い薬湯の世界に想いを馳せていたけれど、ルーシーのほしい薬湯はおそらくもっと一般的なものだろう。
「体を温めたいときに皆さんが買う薬湯ってありますか?」
「はい。人気のオンポートーですね。これは人気なのであらかじめ調合したものをご用意してございます」
男性は引き出しの中から紙包みを取り出した。
ルーシーが旅行に持って行ったものと同じ紙包みだった。
「それです!それがほしかったんです。では、それを1ついただきます」
「畏まりました」
購入した薬湯を受け取ったルーシーは、思い切って聞いてみることにした。
「変なことを伺うのですが、これを飲んで体が温かくなる以外の効果が出ることってありますか?」
「そうですね。本来でしたらお飲みになる方1人1人に合わせておつくりするのですが、これはこちらの国の平均的な女性に合わせてつくってございます。ですので、体のお小さい方にはもしかしたら強く効果が出るかもしれません。しかしもともと薬湯というのは、緩やかな効果のものばかりですし、心配はいらないかと」
「そうですか…」
だったらこの薬湯が原因ではないのだろうか。
ルーシーは表情を曇らせた。
「あるいは…。今日お見せした薬草は、極東の国々では何千年も前から一般的に使われているものです。しかし、こちらの国の方々が飲み始めたのはほんの数年前。体が慣れていないということはあるかもしれません」
店の男性は丁寧に説明してくれた。
「ありがとう」
薬湯が原因か原因でないかは、飲んでみれば分かるだろう。
今回のようにお忍びで街に行く2人に一緒に連れて行ってもらったこともある。
そのたび2人は、もし見つかったらルーシーを首謀者にすると言って脅すのだ。
何度も見つかり、そのたびに両親に叱られた。
『ルーシーが連れて行けとうるさいから、俺たちは行きたくなかったけど仕方なく街に行った』
と、双子は毎回言い訳をするけれど、それを信じるような両親ではないのでルーシーは安泰だ。
2人は騎馬で出かけようとしていたようだが、ルーシーがいたせいで、馬車での外出になった。
ポールが御者役を引き受けている。
「お前はどこに行きたいんだ?」
車内にいるサイモンがルーシーに話しかけた。
「私は極東の薬湯を扱っているお店に行きたいの」
「あぁ、あの店か」
サイモンに伝わったらしい。
ホリーが旅行のために手に入れた薬湯は、旅行の間に使い切った。
旅行から帰ってから、ルーシーの体に異変が起きなくなった。
何が原因なのか分からないけれど、薬湯が怪しいという考えがルーシーの頭にある。
旅行中毎日摂取していたもので、旅行から帰って摂取しなくなったものが薬湯くらいしかないのだ。
多くの侍女が飲んだことがある流行りの薬湯だというので全く疑っていなかったけれど、ルーシーには合わないということもあるかもしれない。
もう一度薬湯を飲んでみて、体に異変が起きれば原因と特定できるのではないかと考えている。
薬湯が原因かどうか確かめるために、薬湯を手に入れたいと思っていた。
ちょうどそこに出かける双子を見つけた。
絶好の機会だ。
ルーシーは店の前で下ろされた。
「いいか、俺たちが迎えに来るまで店で待ってるんだぞ」
ポールはルーシーに念を押すと、馬車を走らせた。
下ろされたのは、見たことのない文字で書かれた看板を掲げた店だった。
金の縁取りのある赤い看板に、絵のような黒い文字が書かれている。
ガラスを通し中の様子が見える。
入り口には金でできた人形が来客を出迎えていた。
人形の頭は鷹のような鳥で、体は人の身体だ。
初めてくる店の圧倒的な異国情緒に面食らってしまい、きょろきょろと店を見回す。
東国の陶磁器や絵画が飾られている。
売り物でもあるようだ。
「何かお探しですか?」
店の男性がルーシーに声をかけた。
「薬湯がほしいのですが…」
「どちらの薬湯でしょうか?色々種類がございますが」
男性はルーシーを店の奥に導いた。
店の奥にはカウンターと椅子が置かれている。
ルーシーを椅子に座らせると、男性はカウンターの中に入った。
カウンターの後ろは ずらりと引き出しが並べられている。
「薬湯ってどんな種類があるんですか?」
ルーシーは男性に尋ねた。
「難しい質問です。本来薬湯は1人1人に合わせておつくりするので、人の数だけあるということもできます。しかしこちらの国で人気なのは10種類ほどでしょうか」
「1人1人に合わせて作るとは、どういうことですか?」
ルーシーが質問すると、男性は後ろの引き出しを取り出しルーシーの前に出した。
引き出しの中には、乾燥した草や木の根、葉や実が入っていた。
見るもの全てが初めてで珍しく、ルーシーは目を輝かせた。
「例えばこちらの星の形をした薬草は、ほてりを取ると言われています。夏の暑い日に飲んでいただく場合や、お怪我をなさったお客様にはこの薬草を入れて薬湯をおつくりします。それから、こちらの細長い薬草は、滋養強壮によいと言われております。お疲れのお客様、風邪をひかれたお客様にはこの薬草を入れて薬湯をお作りします。この2つはそれだけで飲むととても苦いので、他の薬草で効能や味を調えます」
丁寧に説明を受け、奥の深い薬湯の世界に想いを馳せていたけれど、ルーシーのほしい薬湯はおそらくもっと一般的なものだろう。
「体を温めたいときに皆さんが買う薬湯ってありますか?」
「はい。人気のオンポートーですね。これは人気なのであらかじめ調合したものをご用意してございます」
男性は引き出しの中から紙包みを取り出した。
ルーシーが旅行に持って行ったものと同じ紙包みだった。
「それです!それがほしかったんです。では、それを1ついただきます」
「畏まりました」
購入した薬湯を受け取ったルーシーは、思い切って聞いてみることにした。
「変なことを伺うのですが、これを飲んで体が温かくなる以外の効果が出ることってありますか?」
「そうですね。本来でしたらお飲みになる方1人1人に合わせておつくりするのですが、これはこちらの国の平均的な女性に合わせてつくってございます。ですので、体のお小さい方にはもしかしたら強く効果が出るかもしれません。しかしもともと薬湯というのは、緩やかな効果のものばかりですし、心配はいらないかと」
「そうですか…」
だったらこの薬湯が原因ではないのだろうか。
ルーシーは表情を曇らせた。
「あるいは…。今日お見せした薬草は、極東の国々では何千年も前から一般的に使われているものです。しかし、こちらの国の方々が飲み始めたのはほんの数年前。体が慣れていないということはあるかもしれません」
店の男性は丁寧に説明してくれた。
「ありがとう」
薬湯が原因か原因でないかは、飲んでみれば分かるだろう。
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