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やっぱり

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宿の食事は宿側に頼んで、フランツと同じテーブルにしてもらった。

「こちらは、当地の名産である。トビタケのソテーでございます。姫様が体の温まる食事をご所望と伺いご用意いたしました。トビタケは1年の中でも一番寒い、今頃旬を迎えるきのこでございます。鮮度が落ちると急速に味が落ちることから、王都に運ぶことはできません。この地方の者が、この季節にだけ味わえる格別の美味でございます。体も温まります。ぜひご賞味ください」

宿の者が晩餐のメニューを説明してくれた。

この地方の特産きのこ、トビタケをふんだんに使ったコースのようだ。

ごくごく儀礼的・事務的な会話をフランツと交わしながら食事をしていく。

フランツが食べたのを確認してから、ルーシーも料理を口に運んだ。

「試しに皿を交換してみましょう」

フランツの提案で、何度か皿を交換した。

何者かがルーシーの皿にだけ異物を混入していれば、これで防げるはずだ。

フランツは宿の者に心配をかけないよう、王族の食事において必要な手順なのだと説明していた。

ルーシーはフランツの心配りを好ましく思った。

宿に用意してもらった晩餐は終了した。

今の所フランツにもルーシーにも異変はない。

今日はフランツにもルーシーと同じ食事をしてもらう必要があるため、薬湯とジンジャークッキーを食後にフランツと共に頂いた。

「姫、この薬湯は毎晩お飲みになっていらっしゃるのですか?」

フランツは初めて薬湯を目にしたようで、遠巻きに眺めたり匂いを嗅いだりしている。

薬湯は深緑色でほんの少しとろみがある液体で、独特の香りを放っている。

「ええ、この旅に出るにあたり持ってきて飲んでいるの」

ルーシーが答えると、フランツの目がキラリと光った。

「以前お飲みになったことは?」
「ないわ」

「率直に申し上げて、この薬湯がもっとも怪しいと思います」

「ところが、この薬湯は街で売られているものなの。もちろんとても貴重で高価なものだそうだけれど。流行に敏感な王宮の侍女たちも飲んだことがあるそうよ」

「その者たちには、ああいった症状は出ていないのですね?」

「ええ。体が温まると聞いたわ」

答えを聞いたフランツは、薬湯をグイッと飲んだ。

飲んだ後、フランツの眉間に少し皺が寄ったのをルーシーは見逃さなかった。

味が好みではなかったようだ。

ルーシーはフランツに気づかれないように微笑んだ。

氷の騎士なんて呼ばれているからもっと冷たい人なのかと思っていたけれど、フランツは温かく表情豊かだ。




翌日の出発前、ルーシーは喜び勇んで迎えに来たフランツに声をかけた。

「体は大丈夫?」

ルーシーはもちろんおかしくなった。

朝起きた時には、服を全て脱いだ状態だった。

王女として不適切な行為をしたおぼろげな記憶もある。

上掛けは夜中寒くなって引き寄せた記憶があるので、一時的に上掛けもかけずに全裸で寝ていたようだ。

「はい。私は問題ありませんでした」

フランツは言った。

“やっぱりあなたもなったでしょ?”とか“あなたも体験したのね?何が原因なのかしら”といった共感しあう答えしか用意していなかったルーシーは、前のめりになったまま言葉を失った。

仲間ができたと喜んでいたのに、ぬか喜びだったのだろうか。

『問題ありません』とは、つまりフランツにはなんの変化もなかったということだろうか。

「いつも通りということ?」
「はい。姫はいかがですか?」

問い返されて気づいた。

この問いに『体がおかしくなった』と答えることができないことに。

正直に答えることは、昨晩も恥ずかしい行為をしていたことを認めることになる。

自殺行為だ。

つまりルーシーの答えは最初から決まっていたのだ。

「私も大丈夫だったわ」
ルーシーは微笑み、心の中で泣いた。

なぜ、自分だけなのか?

「安心いたしました。念のためこれからも姫と同じ食事をとるようにいたします」

フランツの顔には安堵の表情が浮かんでいたが、ルーシーは『それ意味ないからーーー』と叫びたかった。
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