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赦し

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3日目の宿は宿場町の格式高い宿だった。

ルーシーは着いて早々、フランツの部屋を訪ねることにした。

身体がおかしくなるのは、いつも夜遅い時間帯だ。

この時間ならば大丈夫だろうと、2日間の経験を踏まえて行動している。

今日フランツを訪ねる目的、それは昨夜脅すようなことを言ってしまったことを謝るため。

父親の権力を利用して、家に圧力をかけると脅すなど、軽蔑されているに違いない。

しかもその後、記憶の中にある“アレ”が夢でなければ、ルーシーはフランツにまたもやとんでもないことをさせた。

王女としてあるまじき行為だ。

まだ祖母の家についてすらいない。

旅は続く。
その間フランツから軽蔑の視線を浴びて過ごすのは苦痛だ。

早く謝って、誤解を解かなければ。

今日も会いに来た口実は“旅程を確認したい”というものを使った。

毎日旅程を自ら確認しに来る王女、不審に思われていなければいいけれど…。

部屋に通されフランツと2人きりになった。

勇気を出してフランツの表情を見てみると、フランツは以前と変わらぬ表情をしていた。

蔑みの目で見られているかもしれないと恐れていたけれど、そんなことはなかった。

単にフランツが誰に対しても平等に冷静に対応する人物だからかもしれないけれど、これから謝罪しようとするルーシーには励みになった。

「ごめんなさい」
ルーシーは勢いよく頭を下げる。

「姫、どうぞ頭をお上げください。一国の姫が軽々しく頭を下げるものではありません」

フランツは慌てているようで、立ち上がりルーシーの側に近づいてきた。

ルーシーは顔を上げることなく、頭を下げたまま話し始めた。

「昨日は、父に頼んでクールガー侯爵家に圧力をかけるようなことを言ってごめんなさい。あれは私の本意ではないの。なぜあんなことを言ってしまったのか自分でもわからない。本当にごめんなさい。あなたがもしこの旅でのことを誰かに話して噂になったとしても、絶対にあなたの家に迷惑がかかるようなことはしないと誓うわ。でも、できることなら黙っていてほしい。秘密にしてほしいの」

ルーシーは思いつくままに話した。
今回は話したいように話すことができたと思う。

「なんだ、そんなことでしたか」

ホッとしたようなフランツの声が聞こえる。

「姫、顔をお上げください」
言われてルーシーは顔を上げた。

「私のことを軽蔑したわよね?」
ルーシーは恐る恐る尋ねた。

「まさか。姫を軽蔑するなど、あるはずがありません。昨日のことは、〝混乱していて聞き覚えのあるセリフを言ってしまった” というところでしょう」

フランツは何かを思い出したようにクスリと苦笑した。

フランツが本当に自分のことを軽蔑していないようで、ルーシーは少し緊張を解き、同時に感動した。

(あんな脅すようなことを言ったのに、軽蔑していないだなんて。クールガー隊長って心の広い良い方なんだわ)

ジーンと胸に温かいものが込み上げてくる。

なんと懐の大きい男性なのだろう。

父王がフランツをルーシーに同行させたことを、今更ながらに感謝したい気分だった。

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