上 下
8 / 49

恋人

しおりを挟む
今日もルーシーは馬車の小窓から外を眺めているけれど、景色を見ているわけではなかった。

ずっと昨夜の自分のおかしさに対して、何か言い訳ができないかと考えている。

一番考えられるのは、やはり何か怪しい食材を口にしてしまったということ。

ただ同じものを食べたはずなのに、こんなに慌てているのはルーシーだけに見える。

これはどういうことなのだろうか。

みんなが隠すのがうまいだけなのだろうか。

時折騎馬で外を守る騎士たちのマントが視界に入ってしまい、その都度ルーシーは頬を染めた。

朝、フランツから今日の旅程が説明されたが、ルーシーはフランツの目を見ることができなかった。

フランツに変わった様子はなく、夢だと思いたいおぼろげな記憶は、やはりその大部分が夢だったのではないかと希望が湧いた。


昼食は宿で作ってもらったサンドイッチで軽く済ませる。

しばらくの間休憩になり、騎士たちは火をおこしてお湯を沸かし始めた。

寒いので、こうして温まるのだ。

少しの間馬車から降りて体を延ばし、食事が用意されるのを待った。

ルーシーとホリーは馬車の中で食事をとる。

騎士の1人がお茶を携帯用カップに入れて持ってきてくれた。

旅の日程を確認しながら食事を終えゆっくりしていると、ホリーが噂話を始めた。

「そういえば、さっき隊員の方々が噂しているのを聞いてきたのですが、クールガー隊長にはどうやら恋人がいらっしゃるようですわ」

ホリーは恋の噂が好きなようで、瞳を輝かせている。

「そ、そうなのね」

なんとなく居づらい気分になる。

「今まで噂1つない方ですので、みなさん驚かれてました。騎士の方々の間ではもっぱらの噂になっているようですわ」

「そ、そう」

どう反応して良いのかわからない。

「なんでも女性もののパンツをマントの内ポケットから取り出して広げ、愛おしそうに見ていたのだとか。きっと離れている間、肌身離さず持っているように言われているのですわ」

ホリーはうっとりとした瞳で頬を染めている。

「グェホッ!ゲホゲホゲホッゴホッ」

お茶が変な方に入ったようで、むせてしまった。

恋人が旅に出るからと、餞別に自分のパンツを渡すものだろうか?

しかもそんな光景にうっとりするホリー。

どんな恋人?そしてホリーは一体どんな心情なのか?

突っ込みを入れたい気分になる。

「まぁ、大丈夫ですか」

ホリーに背中をさすられながら涙目で考えるのは、そのパンツは自分のものだろうということだ。

とっさに隠した場所が、マントの内ポケットだったのだろう。

きっとフランツは“なんだこれは?”と内ポケットに入っている謎の物体を見つけ、広げて確認していただけだろう。

女性もののパンツを眺めているところを部下に見られるなど、変態扱いされてもおかしくない。

それが恋人がいるという噂になるというのは、フランツの人徳だろうか?

とにかく変な噂になってしまったようで、迷惑をかけてしまったことが申し訳なくなった。

(クールガー隊長にとってはとんでもない災難ね。これ以上は迷惑をかけないようにして、きちんと謝らないと)

折を見て謝罪しようと心に決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Re_Love 〜婚約破棄した元彼と〜

鳴宮鶉子
恋愛
Re_Love 〜婚約破棄した元彼と〜

DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax
恋愛
たとえ世界が終わっても…最後まであなたと共に 恋愛×現代ファンタジー×魔法少女×魔法男子×学園 魔物が出没するようになってから300年後の世界。 祖母や初恋の人との約束を果たすために桜川姫歌は国立聖歌騎士育成学園へ入学する。 そこで待っていたのは学園内Sクラス第1位の初恋の人だった。 しかし彼には現在彼女がいて… 触れたくても触れられない彼の謎と、凶暴化する魔物の群れ。 魔物に立ち向かうため、姫歌は歌と変身を駆使して皆で戦う。 自分自身の中にあるトラウマや次々に起こる事件。 何度も心折れそうになりながらも、周りの人に助けられながら成長していく。 そしてそんな姫歌を支え続けるのは、今も変わらない彼の言葉だった。 「俺はどんな時も味方だから。」

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...