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それから何度か夜会に出て、王宮の夜会にも出席した。
そして分かったことは思っていたよりはサラのうわさ話をする者は少ないということだった。
1つは、恩赦のおかげで多くの貴族が帰ってきたためサラのうわさ話以外にも話題が尽きないことが理由として挙げられる。
もう1つの理由は、サラのうわさ話をすることが、王家のうわさ話をすることになってしまうということだ。
例えば、サラのことを皇太子殿下に捨てられた女と言えば、皇太子殿下がサラを捨てたと噂することになる。
サラがソフィアにエリック王子を寝取られたと言えば、皇太子の婚約者ソフィアの悪口を言うことにもつながる。
どちらにしても王家のうわさ話をすることになってしまう。
恩赦が出たとはいえ、貴族たちは王妃の動向に今なお警戒していて、分別のある家は王妃を怒らせないよう気を配っているようだった。
そのため大規模な夜会ほど、最終的に王家のうわさ話につながるようなサラの噂は避けているように感じられた。
サラは今、出発の準備に追われている。
今日から1週間、ミルナー侯爵家の別荘に招待されているのだ。
1週間泊りがけとなると荷物も多くなる。
ミルナー侯爵家は、侯爵夫人であるパールがアンヌ王妃の親友であることから大変な権勢を誇っている。
今回、王都からほど近い山の山頂にミルナー侯爵家の新しい別荘が完成したということで多くの貴族が別荘に招待された。
連日連夜夜会が開かれることになっているそうだ。
ミルナー侯爵家からの招待を断る貴族はいないので、大変な賑わいになるだろうと予想された。
サラは侍女のエミリーと共に馬車に乗り込んだ。
「お天気もいいので、予定より早く着くだろうとのことです」
御者から話を聞いてきたエミリーが予定を教えてくれた。
「分かったわ。山頂の湖のほとりに別荘を建てたそうなの。楽しみね」
行く先で社交が待っていると思うと憂鬱な気持ちもあるけれど、旅には心が弾んだ。
途中で少し休憩していると、何台か馬車が追い抜いて行った。
それだけ多くの招待客がいるのだ。
陽が高いうちに到着したミルナー侯爵家の別荘は、山頂にできた大きな湖のほとりに建つ白亜のお城だった。
その大きさ・広さは“城”と言っても差し支えないだろう。
ゲストルームだけで100部屋以上用意されていると聞いた時は何かの間違いではないかと思ったが、実際に見て100部屋以上あってもおかしくないと納得した。
湖はサラが想像していたものの10倍は大きく、向こう岸がかすんで見える。
凪いだ湖面には空が映っていた。
緑豊かな庭に白亜のお城、そして青空というコントラストが美しい。
ちょうど多くの貴族が到着する時間だったようで、ミルナー侯爵夫妻と長女のアイリス、次女のマーガレットが外に出て来客を出迎えていた。
「お招きいただきありがとうございます」
「ようこそ、おいでくださいました。ごゆっくりおくつろぎください」
侯爵夫妻に型通りの挨拶をすると、流れ作業のように使用人に部屋に案内されていく。
サラのすぐ後ろにも、数組の来客者が挨拶の順番を待っていた。
流れ作業になるほど来客が多いのだ。
内装も外壁と同様白でまとめられている。
金の装飾が所々にほどこされ、洗練された雰囲気だ。
サラが案内されたのは2階の西寄りの部屋だった。
部屋数が多く部屋を間違えるのではないかと不安だったが、部屋は扉の彫刻が全部違っていると案内されながら教えてもらった。
サラの部屋の彫刻はユリの花になっていた。
扉を開き入った部屋は、落ち着いた淡いグリーンと花柄で統一された、かわいらしい部屋だった。
「すごく可愛いわ」
ベッドもふかふかで申し分ない。
窓からは湖が一望できた。
湖にはたくさんの小舟が用意されているようだ。
既に何艘か湖に漕ぎ出しているものがある。
先に着いた来客が遊んでいるようだ。
今の季節、水上は涼しく気持ちいいだろう。
後で乗ってみたい。
そして分かったことは思っていたよりはサラのうわさ話をする者は少ないということだった。
1つは、恩赦のおかげで多くの貴族が帰ってきたためサラのうわさ話以外にも話題が尽きないことが理由として挙げられる。
もう1つの理由は、サラのうわさ話をすることが、王家のうわさ話をすることになってしまうということだ。
例えば、サラのことを皇太子殿下に捨てられた女と言えば、皇太子殿下がサラを捨てたと噂することになる。
サラがソフィアにエリック王子を寝取られたと言えば、皇太子の婚約者ソフィアの悪口を言うことにもつながる。
どちらにしても王家のうわさ話をすることになってしまう。
恩赦が出たとはいえ、貴族たちは王妃の動向に今なお警戒していて、分別のある家は王妃を怒らせないよう気を配っているようだった。
そのため大規模な夜会ほど、最終的に王家のうわさ話につながるようなサラの噂は避けているように感じられた。
サラは今、出発の準備に追われている。
今日から1週間、ミルナー侯爵家の別荘に招待されているのだ。
1週間泊りがけとなると荷物も多くなる。
ミルナー侯爵家は、侯爵夫人であるパールがアンヌ王妃の親友であることから大変な権勢を誇っている。
今回、王都からほど近い山の山頂にミルナー侯爵家の新しい別荘が完成したということで多くの貴族が別荘に招待された。
連日連夜夜会が開かれることになっているそうだ。
ミルナー侯爵家からの招待を断る貴族はいないので、大変な賑わいになるだろうと予想された。
サラは侍女のエミリーと共に馬車に乗り込んだ。
「お天気もいいので、予定より早く着くだろうとのことです」
御者から話を聞いてきたエミリーが予定を教えてくれた。
「分かったわ。山頂の湖のほとりに別荘を建てたそうなの。楽しみね」
行く先で社交が待っていると思うと憂鬱な気持ちもあるけれど、旅には心が弾んだ。
途中で少し休憩していると、何台か馬車が追い抜いて行った。
それだけ多くの招待客がいるのだ。
陽が高いうちに到着したミルナー侯爵家の別荘は、山頂にできた大きな湖のほとりに建つ白亜のお城だった。
その大きさ・広さは“城”と言っても差し支えないだろう。
ゲストルームだけで100部屋以上用意されていると聞いた時は何かの間違いではないかと思ったが、実際に見て100部屋以上あってもおかしくないと納得した。
湖はサラが想像していたものの10倍は大きく、向こう岸がかすんで見える。
凪いだ湖面には空が映っていた。
緑豊かな庭に白亜のお城、そして青空というコントラストが美しい。
ちょうど多くの貴族が到着する時間だったようで、ミルナー侯爵夫妻と長女のアイリス、次女のマーガレットが外に出て来客を出迎えていた。
「お招きいただきありがとうございます」
「ようこそ、おいでくださいました。ごゆっくりおくつろぎください」
侯爵夫妻に型通りの挨拶をすると、流れ作業のように使用人に部屋に案内されていく。
サラのすぐ後ろにも、数組の来客者が挨拶の順番を待っていた。
流れ作業になるほど来客が多いのだ。
内装も外壁と同様白でまとめられている。
金の装飾が所々にほどこされ、洗練された雰囲気だ。
サラが案内されたのは2階の西寄りの部屋だった。
部屋数が多く部屋を間違えるのではないかと不安だったが、部屋は扉の彫刻が全部違っていると案内されながら教えてもらった。
サラの部屋の彫刻はユリの花になっていた。
扉を開き入った部屋は、落ち着いた淡いグリーンと花柄で統一された、かわいらしい部屋だった。
「すごく可愛いわ」
ベッドもふかふかで申し分ない。
窓からは湖が一望できた。
湖にはたくさんの小舟が用意されているようだ。
既に何艘か湖に漕ぎ出しているものがある。
先に着いた来客が遊んでいるようだ。
今の季節、水上は涼しく気持ちいいだろう。
後で乗ってみたい。
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