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「な、なんでよ?」
サラの婚約が解消されて良かったなどと言われ、なぜだか急に首筋が熱くなった。
「国王は病床にあり王妃とその取り巻きが権力を握っている。王妃は気に入らない貴族を王宮から締め出している。歴史書の例を見れば、王朝衰退、あるいは末期の症状に近いと思わないか?もちろん王朝交代の歴史は勝者の側が書くから、その点は差し引いて考えるべきだとしても、今の状況は何かが起こる一歩手前に見えるだろ?」
「ちょ、ちょっと!めったなこと言わないでよ」
誰もいないはずだけれど、なんとなく辺りを見回してしまった。
「いまはまだ王宮を追放されるだけで、爵位が剥奪されることもないが、これがさらに加速して、爵位の剥奪や領地の没収、さらに残虐刑の執行や虐殺でも加われば、すぐに何かが起きそうじゃないか?例えば王妃に反感を持つ者が結託し、王弟殿下を担ぎ上げて王宮に攻め入るとか」
「まさか!もうそんな話があるの?」
小声でリチャードに問いただす。
確かに後の歴史家が今の状況を歴史書に書くにあたり、王妃アンヌのことを賢妃と書く者はいないだろう。
「いいや。少なくともまだうちは誘われていない、だが今の状況を考えれば、誰でもそんな未来を想像するだろ?で、もしそうなった場合、エリックと結婚したお前はどう考えても殺される側だ。幼なじみが殺されるってのはさすがに寝覚めが悪い。俺はお前が助かってよかったと思ってるぞ」
「あー、はい、そうですか」
なんだか疲れた。
ドキッとして損した気分だ。
ガクッと肩の力が抜けた。
「お前とエリック殿下との婚約が破棄されたということは、その前の婚約話が復活するってことになるのか?」
唐突にリチャードが話し出した。
「その前の婚約話?」
「そろそろ時間だ。じゃあまたな」
リチャードはニヤリと笑うと、来た時と同じように窓から出て行った。
(どういうつもりなの?)
今までリチャードは数か月に一度この図書館に忍んできていたけれど、過去の婚約話を持ち出すことはなかった。
図書室に一人、サラは両手で頬を覆った。
頬は熱くて、頬の熱が手のひらまで温めてしまう。
手の甲と手のひらを交互に当てて、頬の熱をどうにか冷ますことに成功した。
リチャードの言っていた『その前の婚約話』というのは、サラとリチャードの婚約話のこと。
サラのスタッドフォード侯爵家とリチャードのスタンリー伯爵家は領地が隣で両親の仲が良かった。
自然とサラとリチャードの婚約話は両家の間にあった。
けれどそれが正式なものになる前に、スタンリー伯爵家が王宮への出入りを禁じられてしまい、スタッドフォード侯爵家はスタンリー伯爵家と距離を置くことになった。
3つ年上のリチャードは、いつもサラをからかいサラの心をかき乱す。
(いつものようにからかわれただけだわ。本気にしない!何度も思い出さない!)
自分に言い聞かせ、本を読もうとしたけれど、どんなに文字を追っても意味が頭に入ってくることはなかった。
サラの婚約が解消されて良かったなどと言われ、なぜだか急に首筋が熱くなった。
「国王は病床にあり王妃とその取り巻きが権力を握っている。王妃は気に入らない貴族を王宮から締め出している。歴史書の例を見れば、王朝衰退、あるいは末期の症状に近いと思わないか?もちろん王朝交代の歴史は勝者の側が書くから、その点は差し引いて考えるべきだとしても、今の状況は何かが起こる一歩手前に見えるだろ?」
「ちょ、ちょっと!めったなこと言わないでよ」
誰もいないはずだけれど、なんとなく辺りを見回してしまった。
「いまはまだ王宮を追放されるだけで、爵位が剥奪されることもないが、これがさらに加速して、爵位の剥奪や領地の没収、さらに残虐刑の執行や虐殺でも加われば、すぐに何かが起きそうじゃないか?例えば王妃に反感を持つ者が結託し、王弟殿下を担ぎ上げて王宮に攻め入るとか」
「まさか!もうそんな話があるの?」
小声でリチャードに問いただす。
確かに後の歴史家が今の状況を歴史書に書くにあたり、王妃アンヌのことを賢妃と書く者はいないだろう。
「いいや。少なくともまだうちは誘われていない、だが今の状況を考えれば、誰でもそんな未来を想像するだろ?で、もしそうなった場合、エリックと結婚したお前はどう考えても殺される側だ。幼なじみが殺されるってのはさすがに寝覚めが悪い。俺はお前が助かってよかったと思ってるぞ」
「あー、はい、そうですか」
なんだか疲れた。
ドキッとして損した気分だ。
ガクッと肩の力が抜けた。
「お前とエリック殿下との婚約が破棄されたということは、その前の婚約話が復活するってことになるのか?」
唐突にリチャードが話し出した。
「その前の婚約話?」
「そろそろ時間だ。じゃあまたな」
リチャードはニヤリと笑うと、来た時と同じように窓から出て行った。
(どういうつもりなの?)
今までリチャードは数か月に一度この図書館に忍んできていたけれど、過去の婚約話を持ち出すことはなかった。
図書室に一人、サラは両手で頬を覆った。
頬は熱くて、頬の熱が手のひらまで温めてしまう。
手の甲と手のひらを交互に当てて、頬の熱をどうにか冷ますことに成功した。
リチャードの言っていた『その前の婚約話』というのは、サラとリチャードの婚約話のこと。
サラのスタッドフォード侯爵家とリチャードのスタンリー伯爵家は領地が隣で両親の仲が良かった。
自然とサラとリチャードの婚約話は両家の間にあった。
けれどそれが正式なものになる前に、スタンリー伯爵家が王宮への出入りを禁じられてしまい、スタッドフォード侯爵家はスタンリー伯爵家と距離を置くことになった。
3つ年上のリチャードは、いつもサラをからかいサラの心をかき乱す。
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