上 下
4 / 42

しおりを挟む
「な、なんでよ?」
サラの婚約が解消されて良かったなどと言われ、なぜだか急に首筋が熱くなった。

「国王は病床にあり王妃とその取り巻きが権力を握っている。王妃は気に入らない貴族を王宮から締め出している。歴史書の例を見れば、王朝衰退、あるいは末期の症状に近いと思わないか?もちろん王朝交代の歴史は勝者の側が書くから、その点は差し引いて考えるべきだとしても、今の状況は何かが起こる一歩手前に見えるだろ?」

「ちょ、ちょっと!めったなこと言わないでよ」
誰もいないはずだけれど、なんとなく辺りを見回してしまった。

「いまはまだ王宮を追放されるだけで、爵位が剥奪されることもないが、これがさらに加速して、爵位の剥奪や領地の没収、さらに残虐刑の執行や虐殺でも加われば、すぐに何かが起きそうじゃないか?例えば王妃に反感を持つ者が結託し、王弟殿下を担ぎ上げて王宮に攻め入るとか」

「まさか!もうそんな話があるの?」
小声でリチャードに問いただす。
確かに後の歴史家が今の状況を歴史書に書くにあたり、王妃アンヌのことを賢妃と書く者はいないだろう。

「いいや。少なくともまだうちは誘われていない、だが今の状況を考えれば、誰でもそんな未来を想像するだろ?で、もしそうなった場合、エリックと結婚したお前はどう考えても殺される側だ。幼なじみが殺されるってのはさすがに寝覚めが悪い。俺はお前が助かってよかったと思ってるぞ」


「あー、はい、そうですか」
なんだか疲れた。
ドキッとして損した気分だ。
ガクッと肩の力が抜けた。

「お前とエリック殿下との婚約が破棄されたということは、その前の婚約話が復活するってことになるのか?」

唐突にリチャードが話し出した。

「その前の婚約話?」

「そろそろ時間だ。じゃあまたな」
リチャードはニヤリと笑うと、来た時と同じように窓から出て行った。

(どういうつもりなの?)
今までリチャードは数か月に一度この図書館に忍んできていたけれど、過去の婚約話を持ち出すことはなかった。

図書室に一人、サラは両手で頬を覆った。

頬は熱くて、頬の熱が手のひらまで温めてしまう。
手の甲と手のひらを交互に当てて、頬の熱をどうにか冷ますことに成功した。

リチャードの言っていた『その前の婚約話』というのは、サラとリチャードの婚約話のこと。

サラのスタッドフォード侯爵家とリチャードのスタンリー伯爵家は領地が隣で両親の仲が良かった。
自然とサラとリチャードの婚約話は両家の間にあった。

けれどそれが正式なものになる前に、スタンリー伯爵家が王宮への出入りを禁じられてしまい、スタッドフォード侯爵家はスタンリー伯爵家と距離を置くことになった。

3つ年上のリチャードは、いつもサラをからかいサラの心をかき乱す。

(いつものようにからかわれただけだわ。本気にしない!何度も思い出さない!)
自分に言い聞かせ、本を読もうとしたけれど、どんなに文字を追っても意味が頭に入ってくることはなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

「お前は魔女にでもなるつもりか」と蔑まれ国を追放された王女だけど、精霊たちに愛されて幸せです

四馬㋟
ファンタジー
妹に婚約者を奪われた挙句、第二王女暗殺未遂の濡れ衣を着せられ、王国を追放されてしまった第一王女メアリ。しかし精霊に愛された彼女は、人を寄せ付けない<魔の森>で悠々自適なスローライフを送る。はずだったのだが、帝国の皇子の命を救ったことで、正体がバレてしまい……

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。 本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。 人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆ 本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編 第三章のイライアス編には、 『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』 のキャラクター、リュシアンも出てきます☆

【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。

西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。 路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。 実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく――― ※※ 皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。 本当にありがとうございました。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

あぁ、もう!婚約破棄された騎士がそばにいるからって、聖女にしないでください!

gacchi
恋愛
地味で目立たなかった学園生活も終わり、これからは魔術師学校の講師として人生楽しもう!と思った卒業を祝うパーティ。同じ学年だったフレッド王子が公爵令嬢に婚約破棄を言い渡し、側近騎士ユリアスの婚約者を奪った!?どこにでも馬鹿王子っているんだな…かわいそうと思ったら、ユリアスが私の生徒として魔術師学校に入学してきた!?

処理中です...