上 下
14 / 17

14.訪問者からの知らせ

しおりを挟む
 ルバイトの調査によって、ランベルト侯爵家は特に動いていないことがわかった。
 それはアリシアにとって、安心できる情報である。その知らせがあったということは、母のお墓参りに行けるからだ。

 アリシアとしては、すぐにでも行きたかったお墓参りだが、ランベルト侯爵家が何かする可能性がある以上、ルバイトの決定を待つしかなかった。
 それについて、アリシアに異論があった訳ではない。彼女も納得して、今まで過ごしてきたのである。

 母のお墓がわかっているという状況は、アリシアを落ち着かせていた。
 見通しがつかなかった今までと違って、心穏やかに時間を過ごせたのである。

 しかしそんな折、アルバーン侯爵家に来客があった。
 その人物の来訪にルバイトが焦っている様子に、アリシアは少し驚いていた。彼はいつも冷静なのだとばかり、思っていたからだ。

「まさか、あなたがこちらを訪ねて来るなんて……」
「アルバーン侯爵……いえ、ルバイトさんと呼んだ方がよろしいでしょうかね?」
「ええ、それで構いません。あなたからの呼ばれ方は、そちらの方がしっくりと来ますから」

 突然やって来た人物は、 丸い眼鏡と長い髪を後ろで束ねた初老の紳士である。
 その人物に、アリシアは少し怯んでいた。彼の掴み所がない雰囲気に、調子が狂ってしまったのである。

「ルバイト様、こちらの方は?」
「アリシア、こちらは俺の剣の師であるベルトンさんだ。今は王子の家庭教師をしているとても偉大な方だ」
「偉大なんてよしてくださいと、いつも言っているでしょう。えっと、あなたはアリシアさんですね。お話は聞いています。それに私も色々と調べました」
「……調べた?」

 ベルトンの言葉に、ルバイトは眉を動かした。
 彼の顔は、一気に険しくなる。それを見てアリシアは、少し不安になっていた。

 ベルトンという人物は、ルバイトと親しい人だと思っていた。
 それなのにかなり警戒しており、アリシアは少し混乱してしまったのである。

「ベルトンさん、あなたが何故アリシアのことを調べるのですか?」
「……王の命令です」
「王の命令とは、穏やかではありませんね?」
「いえいえ、ご安心ください。私はあなたの味方ですから」
「……本当ですか?」

 ルバイトはベルトンのことを、かなり恐れているようだった。
 それを見てアリシアは思う。ベルトンはもしかしたら、王子の家庭教師以上の役目があるのかもしれないと。

 それを知っているからこそ、ルバイトが恐れた。
 アリシアは状況をそのように理解した。

「ええ、本当ですとも。というよりも、国王様はあなたの味方です」
「国王様が? どうして、俺の味方なのですか?」
「それはあなたが国王様の甥だからです」
「……なんですって?」

 ベルトンの言葉に、ルバイトは目を丸めていた。
 かなり驚いているのだろう。彼は固まってしまっている。

 それはアリシアも同じだった。
 ベルトンが告げたことは、にわかには信じられないようなことである。

 アリシアとルバイトは、顔を見合わせた。
 この不可解な状況に、二人は思わずそうしてしまったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。

天災
恋愛
 美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。  とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです

菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。 自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。 生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。 しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。 そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。 この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

王城の廊下で浮気を発見した結果、侍女の私に溺愛が待ってました

メカ喜楽直人
恋愛
上級侍女のシンシア・ハート伯爵令嬢は、婿入り予定の婚約者が就職浪人を続けている為に婚姻を先延ばしにしていた。 「彼にもプライドというものがあるから」物わかりのいい顔をして三年。すっかり職場では次代のお局様扱いを受けるようになってしまった。 この春、ついに婚約者が王城内で仕事を得ることができたので、これで結婚が本格的に進むと思ったが、本人が話し合いの席に来ない。 仕方がなしに婚約者のいる区画へと足を運んだシンシアは、途中の廊下の隅で婚約者が愛らしい令嬢とくちづけを交わしている所に出くわしてしまったのだった。 そんな窮地から救ってくれたのは、王弟で王国最強と謳われる白竜騎士団の騎士団長だった。 「私の名を、貴女への求婚者名簿の一番上へ記す栄誉を与えて欲しい」

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

王子と王女の不倫を密告してやったら、二人に処分が下った。

ほったげな
恋愛
王子と従姉の王女は凄く仲が良く、私はよく仲間外れにされていた。そんな二人が惹かれ合っていることを知ってしまい、王に密告すると……?!

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...