虐げられてきた妾の子は、生真面目な侯爵に溺愛されています。～嫁いだ先の訳あり侯爵は、実は王家の血を引いていました～

８．豪華な部屋

「ここが君の部屋だ」
「ここが、私の……」

　アリシアは、ルバイトに部屋まで案内してもらっていた。
　彼女から色々と聞き終えた彼から、とりあえず休むように言われたのである。

　アルバーン侯爵家までの道中は、それなりに長かった。
　故にアリシアにも、確かに疲れはある。

　しかし彼女は、少し気になっていた。
　ルバイトが今後どうするつもりであるのか、それを聞かせてもらっていないのだ。

「このような部屋を私が使ってもよろしいのでしょうか？」
「もちろんだ。君は俺の妻になるのだからな」
「妻、ですか……そうなのですよね」

　ルバイトに他に聞きたいことがありながらも、アリシアはまず部屋のことについて問いかけていた。
　それは彼女の部屋が、とても広く豪勢なものだったからである。ランベルト侯爵家では屋根裏部屋で暮らしていた彼女にとって、その部屋は信じられないものだったのだ。

　ただアリシアも、ルバイトがランベルト侯爵家の人達と違うことはよくわかっている。
　故にこの部屋で暮らすことは、とりあえず受け入れることができた。

「でも、夫婦というものは同じ部屋で暮らしたりするのではありませんか？」
「夫婦といっても色々とある。少なくとも君と俺は、同じ部屋で過ごすような仲ではまだないだろう。まあ、とりあえず、しばらくはこの部屋で暮らすといい。何か困ったことがあったら言ってくれ。言う対象は、俺でも使用人でも構わない」
「お気遣いありがとうございます。でも、使用人というと……」

　ルバイトの言葉に、アリシアは思わず周囲を見渡していた。
　この屋敷に来てから、アリシアは使用人の姿を見ていない。ルバイトが一人で迎えてくれたし、ここまでの案内なども彼一人がしていたのだ。

　事情は説明されたため、アリシアもこの屋敷に人が少ないということはわかっている。
　しかしあまりにも見かけないため、不安になっていたのだ。

「使用人については、追々紹介するとしよう。この屋敷に常駐しているのは四人だ」
「たった四人なんですか？」
「ああ、信頼できる人しか雇っていないからな。まあ、その辺りは説明した通り、両親が亡くなった時に色々とあったからだ。それに、四人だけで仕事をしているという訳でもない。場合によっては、臨時で雇うこともある。まあ君を迎えるからには、もう少し増やしていく必要はあると思うが」

　アリシアは、ルバイトの言葉に刺々しさを感じていた。
　先程も聞いた話ではあるが、両親が亡くなった際には使用人とも色々と揉めたということが伺える。

　恐らく、ルバイトは人間の汚い部分を見たのだろう。アリシアはそう思っていた。
　侮られやすい立場にあった侯爵の子供を利用しようとする人がいたとしても、おかしくはない。
　そういう人と接したことによって、ルバイトの警戒心は強くなっているのだろう。アリシアは状況をそう解釈した。

　もっとも、アリシアにとって使用人の多さというものはそれ程重要なことではなかった。
　むしろ、ルバイトが信用している人しかいないというなら安心することができていた。ランベルト侯爵家の使用人達の中にはひどい人もいたことを、アリシアもよく覚えているのだ。