上 下
22 / 120

22.別れの時

しおりを挟む
 ナルキアス一家の屋敷で一晩を明かしてから、私は荷物をまとめていた。
 サルドンさんはとても手が早く、昨日の内にセリーエさんに連絡を取ってくれたのだ。
 セリーエさんもまた手が早い人物であるらしく、私は昨日の今日で彼女が管理するマンションに住めるようになった。
 という訳で、私はそこに向かうために荷造りをしているのだ。もっとも、荷物はそんなにないのだが。

「よし……」

 荷物がまとめられたので、私は部屋の外に出た。
 すると、廊下の奥の方から歩いてくるスライグさんが見えた。もしかして、私を訪ねて来たのだろうか。

「あ、ルルメアさん、荷物はまとまりましたか?」
「ええ、スライグさん、私に何か用ですか?」
「え? ええ、まあ、そうですね」

 私の言葉に対して、スライグさんは目をそらした。その反応に、私は違和感を覚える。
 どうして、そんな反応をするのだろうか。何かなければ、そんな反応はしないはずである。

「……もしかして、家の中で迷子になっているとか?」
「い、いえ、流石に家の中は迷いませんよ」

 私の言葉に、スライグさんは首を横に振った。方向音痴の彼なら、それもあり得るかと思ったが、そうではないらしい。

「それなら、どうしたんですか?」
「……少し、寂しいと思いまして」
「寂しい?」

 スライグさんの言葉に、私は驚いた。まさか、彼がそんなことを言うなんて思ってもいなかったからだ。
 だが、よく考えてみれば、ナルキアス一家の面々とは、今日でお別れである。恐らく、彼はそれを言っているのだろう。

「そうですね……確かに、少し寂しいです」
「ええ……」

 私とスライグさんは、しみじみとしていた。
 もちろん、同じ町に住んでいるのだから、会えない訳ではない。しかし、私は新生活でしばらく忙しくなるだろうし、商人一家の彼らも気軽に会えるとは思えない。
 一緒に旅をしたからか、ここ数日は彼とほとんど一緒だった。それを考えると、確かに少し寂しくなってくる。

「あなたと出会えて、僕は良かったと思います。どうか、これからもよろしくお願いしますね」
「……はい。私も、スライグさんに会えたことは幸運だったと思っています」

 スライグさんが差し出してきた手を、私はゆっくりと握りしめた。
 ズウェール王国からアルヴェルド王国に移る際に、彼とセレリアさんに出会えて良かった。彼らのような素晴らしい人達と知り合えたことは、何よりの幸運だったといえるだろう。

「さて、それじゃあ、ルルメアさんはマンションに行かないといけませんね。案内しますよ?」
「え? いや、それは……」

 スライグさんの言葉に、私は少し怯んだ。なぜなら、彼は方向音痴だからだ。
 そういえば、出会ったのもその方向音痴のおかげだったと思い出して、私は少し笑うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...