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22.別れの時
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ナルキアス一家の屋敷で一晩を明かしてから、私は荷物をまとめていた。
サルドンさんはとても手が早く、昨日の内にセリーエさんに連絡を取ってくれたのだ。
セリーエさんもまた手が早い人物であるらしく、私は昨日の今日で彼女が管理するマンションに住めるようになった。
という訳で、私はそこに向かうために荷造りをしているのだ。もっとも、荷物はそんなにないのだが。
「よし……」
荷物がまとめられたので、私は部屋の外に出た。
すると、廊下の奥の方から歩いてくるスライグさんが見えた。もしかして、私を訪ねて来たのだろうか。
「あ、ルルメアさん、荷物はまとまりましたか?」
「ええ、スライグさん、私に何か用ですか?」
「え? ええ、まあ、そうですね」
私の言葉に対して、スライグさんは目をそらした。その反応に、私は違和感を覚える。
どうして、そんな反応をするのだろうか。何かなければ、そんな反応はしないはずである。
「……もしかして、家の中で迷子になっているとか?」
「い、いえ、流石に家の中は迷いませんよ」
私の言葉に、スライグさんは首を横に振った。方向音痴の彼なら、それもあり得るかと思ったが、そうではないらしい。
「それなら、どうしたんですか?」
「……少し、寂しいと思いまして」
「寂しい?」
スライグさんの言葉に、私は驚いた。まさか、彼がそんなことを言うなんて思ってもいなかったからだ。
だが、よく考えてみれば、ナルキアス一家の面々とは、今日でお別れである。恐らく、彼はそれを言っているのだろう。
「そうですね……確かに、少し寂しいです」
「ええ……」
私とスライグさんは、しみじみとしていた。
もちろん、同じ町に住んでいるのだから、会えない訳ではない。しかし、私は新生活でしばらく忙しくなるだろうし、商人一家の彼らも気軽に会えるとは思えない。
一緒に旅をしたからか、ここ数日は彼とほとんど一緒だった。それを考えると、確かに少し寂しくなってくる。
「あなたと出会えて、僕は良かったと思います。どうか、これからもよろしくお願いしますね」
「……はい。私も、スライグさんに会えたことは幸運だったと思っています」
スライグさんが差し出してきた手を、私はゆっくりと握りしめた。
ズウェール王国からアルヴェルド王国に移る際に、彼とセレリアさんに出会えて良かった。彼らのような素晴らしい人達と知り合えたことは、何よりの幸運だったといえるだろう。
「さて、それじゃあ、ルルメアさんはマンションに行かないといけませんね。案内しますよ?」
「え? いや、それは……」
スライグさんの言葉に、私は少し怯んだ。なぜなら、彼は方向音痴だからだ。
そういえば、出会ったのもその方向音痴のおかげだったと思い出して、私は少し笑うのだった。
サルドンさんはとても手が早く、昨日の内にセリーエさんに連絡を取ってくれたのだ。
セリーエさんもまた手が早い人物であるらしく、私は昨日の今日で彼女が管理するマンションに住めるようになった。
という訳で、私はそこに向かうために荷造りをしているのだ。もっとも、荷物はそんなにないのだが。
「よし……」
荷物がまとめられたので、私は部屋の外に出た。
すると、廊下の奥の方から歩いてくるスライグさんが見えた。もしかして、私を訪ねて来たのだろうか。
「あ、ルルメアさん、荷物はまとまりましたか?」
「ええ、スライグさん、私に何か用ですか?」
「え? ええ、まあ、そうですね」
私の言葉に対して、スライグさんは目をそらした。その反応に、私は違和感を覚える。
どうして、そんな反応をするのだろうか。何かなければ、そんな反応はしないはずである。
「……もしかして、家の中で迷子になっているとか?」
「い、いえ、流石に家の中は迷いませんよ」
私の言葉に、スライグさんは首を横に振った。方向音痴の彼なら、それもあり得るかと思ったが、そうではないらしい。
「それなら、どうしたんですか?」
「……少し、寂しいと思いまして」
「寂しい?」
スライグさんの言葉に、私は驚いた。まさか、彼がそんなことを言うなんて思ってもいなかったからだ。
だが、よく考えてみれば、ナルキアス一家の面々とは、今日でお別れである。恐らく、彼はそれを言っているのだろう。
「そうですね……確かに、少し寂しいです」
「ええ……」
私とスライグさんは、しみじみとしていた。
もちろん、同じ町に住んでいるのだから、会えない訳ではない。しかし、私は新生活でしばらく忙しくなるだろうし、商人一家の彼らも気軽に会えるとは思えない。
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「あなたと出会えて、僕は良かったと思います。どうか、これからもよろしくお願いしますね」
「……はい。私も、スライグさんに会えたことは幸運だったと思っています」
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「さて、それじゃあ、ルルメアさんはマンションに行かないといけませんね。案内しますよ?」
「え? いや、それは……」
スライグさんの言葉に、私は少し怯んだ。なぜなら、彼は方向音痴だからだ。
そういえば、出会ったのもその方向音痴のおかげだったと思い出して、私は少し笑うのだった。
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