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30.幸せな暮らし
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私は、ラーバスさんの妻として生きていくことになった。
エガード侯爵家の領地を引き継いだ彼は、立派な貴族の一人として務めている。領地の人々からも、良き領主であると評判だ。
「ふう……」
「ラーバスさん、今日もお疲れ様」
「ああ、ありがとう」
私は、紅茶を差し出すとラーバスさんは、疲れた顔でそれを受け取った。
領主生活は、彼にとってかなり疲れるものであるようだ。これまで接してきた中で、それはわかっていることだ。
やはり彼は騎士であるということなのだろう。領主生活は、性に合っているという訳でもないのかもしれない。
ただそれでもきちんと仕事はしているし、領民からの評判も良いというのは、彼の優秀さを表しているといえるだろう。
「肩でも揉もうか?」
「いや、そんなことはしてもらう訳にはいかない。君も俺の仕事を手伝っていたのだからな。疲れているだろう」
「そういう訳でもないよ。私の方は、これでも一応真っ当に貴族として生きてきた訳だし、慣れているというか……そもそも、メインはラーバスさんだし」
「そういうものなのか。すごいものだな……」
私の言葉に、ラーバスさんは苦笑いを浮かべていた。
実際の所、私はそんなに疲れてはいない。多少の疲れはあれども、まだまだ全然大丈夫だ。
だからこそ、ラーバスさんに何かしてあげたいという気持ちになった。慣れていないことをしたらとても疲れるということは、私もわかっているつもりだ。
「まあ、遠慮せずに……」
「あ、ああ……気持ち良いものだな」
「すごく凝ってる……執務ばかりだからかな?」
「偶には体を動かすべきか……まったく、元騎士ともあろう者が情けない限りだ。手練が足りていない」
「それだけ忙しいってことだし、仕方ないんじゃない? まあ、もう少ししたら領地も落ち着くだろうし、暇もできると思う」
エガード侯爵家の没落によって、領地はそれなり揺れている。
その揺れている領地を平和にするために、ラーバスさんは尽くしているというのが現状だ。
眠る時間以外は、ほとんど働いている。修練の時間なんて、持っての他だろう。
「君や義父上の助けがなければ、どうなっていたことか……」
「お父様はともかく、私の助けなんて微力だと思うけど」
「そんなことはないさ。君は俺を、こうして支えてくれている。とても助かっているよ」
「これからもラーバスさんを支えるつもりだよ。それが私にとって、何よりも幸せなことだから」
「頼りにさせてもらうとしよう」
ラーバスさんは、私の手に自分の手をそっと重ねてきた。
色々とあったが、私は今幸せだ。その幸せは、これからもきっと続いてくだろう。そう思って私は、笑顔を浮かべるのだった。
END
エガード侯爵家の領地を引き継いだ彼は、立派な貴族の一人として務めている。領地の人々からも、良き領主であると評判だ。
「ふう……」
「ラーバスさん、今日もお疲れ様」
「ああ、ありがとう」
私は、紅茶を差し出すとラーバスさんは、疲れた顔でそれを受け取った。
領主生活は、彼にとってかなり疲れるものであるようだ。これまで接してきた中で、それはわかっていることだ。
やはり彼は騎士であるということなのだろう。領主生活は、性に合っているという訳でもないのかもしれない。
ただそれでもきちんと仕事はしているし、領民からの評判も良いというのは、彼の優秀さを表しているといえるだろう。
「肩でも揉もうか?」
「いや、そんなことはしてもらう訳にはいかない。君も俺の仕事を手伝っていたのだからな。疲れているだろう」
「そういう訳でもないよ。私の方は、これでも一応真っ当に貴族として生きてきた訳だし、慣れているというか……そもそも、メインはラーバスさんだし」
「そういうものなのか。すごいものだな……」
私の言葉に、ラーバスさんは苦笑いを浮かべていた。
実際の所、私はそんなに疲れてはいない。多少の疲れはあれども、まだまだ全然大丈夫だ。
だからこそ、ラーバスさんに何かしてあげたいという気持ちになった。慣れていないことをしたらとても疲れるということは、私もわかっているつもりだ。
「まあ、遠慮せずに……」
「あ、ああ……気持ち良いものだな」
「すごく凝ってる……執務ばかりだからかな?」
「偶には体を動かすべきか……まったく、元騎士ともあろう者が情けない限りだ。手練が足りていない」
「それだけ忙しいってことだし、仕方ないんじゃない? まあ、もう少ししたら領地も落ち着くだろうし、暇もできると思う」
エガード侯爵家の没落によって、領地はそれなり揺れている。
その揺れている領地を平和にするために、ラーバスさんは尽くしているというのが現状だ。
眠る時間以外は、ほとんど働いている。修練の時間なんて、持っての他だろう。
「君や義父上の助けがなければ、どうなっていたことか……」
「お父様はともかく、私の助けなんて微力だと思うけど」
「そんなことはないさ。君は俺を、こうして支えてくれている。とても助かっているよ」
「これからもラーバスさんを支えるつもりだよ。それが私にとって、何よりも幸せなことだから」
「頼りにさせてもらうとしよう」
ラーバスさんは、私の手に自分の手をそっと重ねてきた。
色々とあったが、私は今幸せだ。その幸せは、これからもきっと続いてくだろう。そう思って私は、笑顔を浮かべるのだった。
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