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29.因縁からの解放

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 こういう時にどういう顔をしていればいいのか、私にはわからない。
 ただ、時は刻々と過ぎていく。私の結論を、時間は待ってくれないようだ。

「ミルティア、大丈夫か?」
「ああ、うん。大丈夫、落ち着かないというか、変な気分というか……」
「まあ、それは仕方ないことだろう」

 私の隣にいるラーバスさんは、落ち着いているようだった。
 彼の顔を見ていると、私も段々と心が安らいでくる。一緒に来てもらって、本当に良かった。一人だったら、もしかしたら押し潰されていたかもしれない。

「失礼します」
「……どうぞ、入ってください」

 そんなことを思っていると、部屋の戸が叩かれた。
 ラーバスさんがそれに応えて、部屋の中に騎士が入って来る。その騎士は、ラーバスさんの同僚だった騎士だ。

「……お前だったか。終わったのか?」
「……ああ、終わった」

 ラーバスさんの言葉に、同僚だった騎士はゆっくりと頷いた。
 すると二人の視線が、私の方に向く。それは当然だ。今回の件に関しては、私が一番の当事者だ。

「ミルティア嬢、オルドス元侯爵令息の処刑が執行なされました」
「はい……」
「……それでは、私はこれで失礼します」

 騎士は私に深く頭を下げてから、部屋から去っていった。
 それを見届けてから、私はゆっくりとため息をつく。ことの終わりを悟ったからだ。
 そこでラーバスさんは、私の体をゆっくりと引き寄せた。私はそれに体を預ける。今はただ、彼の温もりを感じていたかった。

「これで全て終わったんだよね?」
「ああ、終わったのだ。君もこれで解放される」
「解放……そうだね」

 ラーバスさんの優しい言葉に、私は思わず泣きそうになっていた。
 彼の言う通り、私はこれでやっと解放されるのだろう。オルドス様という呪縛から。
 思えば、長い戦いだったような気がする。だからだろうか、今までの疲れが一気に現れているのかもしれない。

「ラーバスさん、ありがとう。なんだか落ち着いてきた……」
「そうか。それなら何よりだ。しかし、無理をする必要なんてないんだぞ?」
「うん……わかってる。もう少しこうしていてもいいかな?」
「もちろんだ」

 オルドス様の終わりは、なんというか呆気ないものだった。
 もちろん、本人や刑を執行していた人達からすればそうではないのだろうが、少なくとも私の中ではそうだ。
 決して気分が晴れやかという訳ではない。ただ終わったと、そう思うだけだ。

 しかし一つだけ、願っていることはある。
 それは亡くなったレムフィアとサウラの無念が、少しでも晴れていたらいいということだ。
 オルドス様がきちんと裁かれた。私はその事実に思いを馳せるのだった。
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