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23.男爵家の当主

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「ローヴァン男爵、あなたの覚悟には感服致します。流石は男爵家の当主、という言い方は少々上から目線過ぎますか」
「そこまで言っていただける程、私は優れてはいません。ローヴァン男爵家を守れなかった情けない男爵です」

 ラーバスさんからの賞賛の言葉に対して、お父様は苦笑いを浮かべていた。
 そんな風に自分を卑下する必要なんてない。そう言いたかったが、私はその言葉を飲み込んだ。

 お父様がローヴァン男爵家を守れなかったのは、紛れもない事実である。
 それを内部にいる私がこの場で慰めるなんて、良いことではないだろう。当主であるお父様に、これ以上恥をかかせる訳にはいかない。

「ローヴァン男爵家は、先代……いえ、その先々代の頃から苦しい状況にあったと聞いています。そんな中で当主となったあなたは、立派に男爵として務めたといえるでしょう。失礼ながら、元々無理な話だったのでしょう。ローヴァン男爵家を守るなんてことは……」
「ええ、そうだったのでしょうね……それはわかっています。だというのに、私は目先の救いに目がくらみました。それによって間違いを犯した」
「オルドスのことは、予想できることではありません。あれは悪魔なのですから」

 ラーバスさんは、オルドス様に対して辛辣な言葉を口にした。
 彼の言う通りだと、私も思う。オルドス様の凶行なんて予想して娘を送り出さないなんて、無理な話である。誰だって同じことをしただろう。
 私だって、彼があんな人だとは思っていなかった。疑問がなかったという訳ではないが、喜ばしい婚約だと思っていた訳ではあるし。

「何か裏があるかもしれない、そういった考えは何度も頭を過りました。私も妻も、不安はあったのです。しかし良いように考えてしまいました。それは目先の欲望に目がくらんだ結果だといえるでしょう。後悔しています」
「そうやって自らを悔い改められているなら、良いでしょう。世の中には、それができない人が何人もいる」

 そこでラーバスさんは、私の方に視線を向けた。
 家族と再会する前にあったオルドス様のことを、私は思い出す。彼は現実逃避していた。未だに自分の罪をきちんと認めて、反省すらしていない。

「ローヴァン男爵、あなたは領地の者達からも評判がいいと聞いています。そんなあなたに、私は一つ頼みたいと考えています」
「頼む?」
「ええ、私に娘さんを下さいませんか?」
「……え?」

 ラーバスさんの突然の言葉に、私は思わず声をあげていた。
 彼の要求に、私達ローヴァン男爵家は少しの間固まるのだった。
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