22 / 30
22.私の不幸など
しおりを挟む
「みっともない所を見せてしまいましたね……」
「みっともないという訳ではありませんよ。あなたは立派に戦ってきた。恥じる必要はどこにもありません」
家族と並んで座った私は、ラーバスさんに対して少し気まずい思いをしていた。
家族の前で泣くのは、まだ良いのだが、流石の彼の前で泣きじゃくったという事実は心に来るものがある。なんというか、とても恥ずかしい。
ただ、ラーバスさんは本当にまったく持って気にしていないようだ。涼しい顔をして、私の言葉に応えてくれている。
「そもそもの話、私がこの席に同席していたということがおかしな話です。再会というなら、席を外しておくべきでした」
「それについては、家の娘のせいですからお気になさらないでください。ラーバス……殿下、とお呼びした方がよろしいのでしょうか?」
「いいえ、私は一介の騎士にしか過ぎません。そもそも、王族として正式に数えられている訳ではありませんからね」
ラーバスさんの言葉に応えたのは、お父様だった。
私の家族にも、彼の素性は知らせている。本人から許可を取って、教えておいたのだ。
「その、申し訳ありませんでした」
「いいえ、メルリナ様が気にすることでもありませんよ。あなたは、ミルティア様のことを大切に思っているようですね?」
「それはもちろんです。私は、お姉様のことを尊敬していますから」
妹のメルリナは、とても真っ直ぐな言葉をラーバスさんに放った。
この妹は、とても純粋な子だ。そんな妹に対して、私に関する事実を知らせるということは、酷なことだったかもしれない。
実際に彼女は、かなり心を痛めているようだった。今はなんとか、事実を受け止めて前に進めているようではあるが。
「メルリナ様も、将来はきっと素敵な淑女になられますよ」
「淑女、ですか……そうなりたいとは思っています。でも、もうローヴァン男爵家は……」
「そのことですが……」
メルリナの言葉に、ラーバスさんはお父様の方を見た。
弱小貴族であるローヴァン男爵家の現当主は、覚悟を決めた顔をしている。
「ラーバスさん、我々は運命を受け入れるつもりです。元々、ローヴァン男爵家はひどく弱っていましたからね。そもそも爵位をいただいたこと自体が、過ぎたることだったのかもしれません」
「……」
「もちろん、残せるものなら残したいと思っています。しかしそれは、例えば娘を犠牲にしてまでに成し遂げたいということではありません。今回の件で、それがよくわかりました」
お父様の言葉に、私はゆっくりと目を瞑った。
それはきっと、初めからわかっていたことではある。ただ、改めて思い知らされた。両親は私の不幸など、望んではいなかったのだと。
「みっともないという訳ではありませんよ。あなたは立派に戦ってきた。恥じる必要はどこにもありません」
家族と並んで座った私は、ラーバスさんに対して少し気まずい思いをしていた。
家族の前で泣くのは、まだ良いのだが、流石の彼の前で泣きじゃくったという事実は心に来るものがある。なんというか、とても恥ずかしい。
ただ、ラーバスさんは本当にまったく持って気にしていないようだ。涼しい顔をして、私の言葉に応えてくれている。
「そもそもの話、私がこの席に同席していたということがおかしな話です。再会というなら、席を外しておくべきでした」
「それについては、家の娘のせいですからお気になさらないでください。ラーバス……殿下、とお呼びした方がよろしいのでしょうか?」
「いいえ、私は一介の騎士にしか過ぎません。そもそも、王族として正式に数えられている訳ではありませんからね」
ラーバスさんの言葉に応えたのは、お父様だった。
私の家族にも、彼の素性は知らせている。本人から許可を取って、教えておいたのだ。
「その、申し訳ありませんでした」
「いいえ、メルリナ様が気にすることでもありませんよ。あなたは、ミルティア様のことを大切に思っているようですね?」
「それはもちろんです。私は、お姉様のことを尊敬していますから」
妹のメルリナは、とても真っ直ぐな言葉をラーバスさんに放った。
この妹は、とても純粋な子だ。そんな妹に対して、私に関する事実を知らせるということは、酷なことだったかもしれない。
実際に彼女は、かなり心を痛めているようだった。今はなんとか、事実を受け止めて前に進めているようではあるが。
「メルリナ様も、将来はきっと素敵な淑女になられますよ」
「淑女、ですか……そうなりたいとは思っています。でも、もうローヴァン男爵家は……」
「そのことですが……」
メルリナの言葉に、ラーバスさんはお父様の方を見た。
弱小貴族であるローヴァン男爵家の現当主は、覚悟を決めた顔をしている。
「ラーバスさん、我々は運命を受け入れるつもりです。元々、ローヴァン男爵家はひどく弱っていましたからね。そもそも爵位をいただいたこと自体が、過ぎたることだったのかもしれません」
「……」
「もちろん、残せるものなら残したいと思っています。しかしそれは、例えば娘を犠牲にしてまでに成し遂げたいということではありません。今回の件で、それがよくわかりました」
お父様の言葉に、私はゆっくりと目を瞑った。
それはきっと、初めからわかっていたことではある。ただ、改めて思い知らされた。両親は私の不幸など、望んではいなかったのだと。
334
お気に入りに追加
742
あなたにおすすめの小説
幼馴染が好きなら幼馴染だけ愛せば?
新野乃花(大舟)
恋愛
フーレン伯爵はエレナとの婚約関係を結んでいながら、仕事だと言って屋敷をあけ、その度に自身の幼馴染であるレベッカとの関係を深めていた。その関係は次第に熱いものとなっていき、ついにフーレン伯爵はエレナに婚約破棄を告げてしまう。しかしその言葉こそ、伯爵が奈落の底に転落していく最初の第一歩となるのであった。
戦いから帰ってきた騎士なら、愛人を持ってもいいとでも?
新野乃花(大舟)
恋愛
健気に、一途に、戦いに向かった騎士であるトリガーの事を待ち続けていたフローラル。彼女はトリガーの婚約者として、この上ないほどの思いを抱きながらその帰りを願っていた。そしてそんなある日の事、戦いを終えたトリガーはフローラルのもとに帰還する。その時、その隣に親密そうな関係の一人の女性を伴って…。
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
お姉様から婚約者を奪い取ってみたかったの♪そう言って妹は笑っているけれど笑っていられるのも今のうちです
山葵
恋愛
お父様から執務室に呼ばれた。
「ミシェル…ビルダー侯爵家からご子息の婚約者をミシェルからリシェルに換えたいと言ってきた」
「まぁそれは本当ですか?」
「すまないがミシェルではなくリシェルをビルダー侯爵家に嫁がせる」
「畏まりました」
部屋を出ると妹のリシェルが意地悪い笑顔をして待っていた。
「いつもチヤホヤされるお姉様から何かを奪ってみたかったの。だから婚約者のスタイン様を奪う事にしたのよ。スタイン様と結婚できなくて残念ね♪」
残念?いえいえスタイン様なんて熨斗付けてリシェルにあげるわ!
言いたいことは、それだけかしら?
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】
ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため――
* 短編です。あっさり終わります
* 他サイトでも投稿中
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
本当に私がいなくなって今どんなお気持ちですか、元旦那様?
新野乃花(大舟)
恋愛
「お前を捨てたところで、お前よりも上の女性と僕はいつでも婚約できる」そう豪語するノークはその自信のままにアルシアとの婚約関係を破棄し、彼女に対する当てつけのように位の高い貴族令嬢との婚約を狙いにかかる。…しかし、その行動はかえってノークの存在価値を大きく落とし、アリシアから鼻で笑われる結末に向かっていくこととなるのだった…。
第一王子様は妹の事しか見えていないようなので、婚約破棄でも構いませんよ?
新野乃花(大舟)
恋愛
ルメル第一王子は貴族令嬢のサテラとの婚約を果たしていたが、彼は自身の妹であるシンシアの事を盲目的に溺愛していた。それゆえに、シンシアがサテラからいじめられたという話をでっちあげてはルメルに泣きつき、ルメルはサテラの事を叱責するという日々が続いていた。そんなある日、ついにルメルはサテラの事を婚約破棄の上で追放することを決意する。それが自分の王国を崩壊させる第一歩になるとも知らず…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる