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8.変化の理由
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オルドス様の態度は、あの日から一変した。
彼は私のことを、とても丁重に扱っている。まるでお姫様でも扱っているかのような彼の態度に、私は困惑を隠せない。
もちろんそれは、悪いことという訳ではない。だが、今までの彼からかけ離れたその言動は、到底受け入れられるものではないのだ。
「……オルドス様にどのような心境の変化があったのか、ご存知ありませんか?」
「……え?」
本人に直接聞くことはできないため、彼が私につけてくれたメイドであるシャルルナさんに、私は聞いてみることにした。
私の身の周りの世話を担当するようになった彼女は、目を丸めている。しかし知らない訳でもないだろう。彼の私に対する非道な態度は、この屋敷で暮らしている使用人なら知っているはずだ。
「シャルルナさん、あなたは優秀なメイドであると思っています。そんなあなたなら、主人の心境の変化の理由なども知っているのではありませんか? 知っているなら、教えていただきたいのです」
「……いえ、私は何も」
「あなたは、私に同情していますよね? それはなんとなくわかっています。お願いします。今までオルドス様の私への行いを見逃していたことに罪悪感があるなら、知っていることを教えてください」
私は、敢えてシャルルナさんの同情を誘った。
以前の私は、別に助けて欲しいなどとは思っていなかった。そもそも使用人達が見て見ぬ振りをするなんて当然のことなので、そのことで恨みなどもない。
だがここは、敢えてその話を持ち出しておく。そうすることで、彼女が何かを教えてくれれば、儲けものだ。
「……私が知っていることは、一部でしかありません」
「……おや」
「それでも、構いませんか?」
「ええ、もちろんです」
私の押しが効いたのか、シャルルナさんは気まずそうに目をそらしながら、言葉を発した。
それに私は、笑みを浮かべそうになる。ただここは同情を誘いたいので、それは抑えつけておく。
「オルドス様に心境の変化があったのは、事実です」
「……その要因は、一体何でしょうか?」
「ミルティア様です」
「……私?」
シャルルナさんの言葉に、私は思わず彼女の方を二度見してしまった。
今彼女は、確かに私の名前を言った。それはつまり、オルドス様の心境に変化をもたらしたのが、私であるということだ。
しかし、そうなるようなことをした覚えがない。虐げていた私が、哀れになっていったということだろうか。
「ミルティア様は、オルドス様の初恋の女性であるらしいのです」
「……なんですって?」
私は、シャルルナさんの言葉に耳を疑った。
オルドス様の初恋が、私である。それは私にとって、まったく持って信じられないことだった。
彼は私のことを、とても丁重に扱っている。まるでお姫様でも扱っているかのような彼の態度に、私は困惑を隠せない。
もちろんそれは、悪いことという訳ではない。だが、今までの彼からかけ離れたその言動は、到底受け入れられるものではないのだ。
「……オルドス様にどのような心境の変化があったのか、ご存知ありませんか?」
「……え?」
本人に直接聞くことはできないため、彼が私につけてくれたメイドであるシャルルナさんに、私は聞いてみることにした。
私の身の周りの世話を担当するようになった彼女は、目を丸めている。しかし知らない訳でもないだろう。彼の私に対する非道な態度は、この屋敷で暮らしている使用人なら知っているはずだ。
「シャルルナさん、あなたは優秀なメイドであると思っています。そんなあなたなら、主人の心境の変化の理由なども知っているのではありませんか? 知っているなら、教えていただきたいのです」
「……いえ、私は何も」
「あなたは、私に同情していますよね? それはなんとなくわかっています。お願いします。今までオルドス様の私への行いを見逃していたことに罪悪感があるなら、知っていることを教えてください」
私は、敢えてシャルルナさんの同情を誘った。
以前の私は、別に助けて欲しいなどとは思っていなかった。そもそも使用人達が見て見ぬ振りをするなんて当然のことなので、そのことで恨みなどもない。
だがここは、敢えてその話を持ち出しておく。そうすることで、彼女が何かを教えてくれれば、儲けものだ。
「……私が知っていることは、一部でしかありません」
「……おや」
「それでも、構いませんか?」
「ええ、もちろんです」
私の押しが効いたのか、シャルルナさんは気まずそうに目をそらしながら、言葉を発した。
それに私は、笑みを浮かべそうになる。ただここは同情を誘いたいので、それは抑えつけておく。
「オルドス様に心境の変化があったのは、事実です」
「……その要因は、一体何でしょうか?」
「ミルティア様です」
「……私?」
シャルルナさんの言葉に、私は思わず彼女の方を二度見してしまった。
今彼女は、確かに私の名前を言った。それはつまり、オルドス様の心境に変化をもたらしたのが、私であるということだ。
しかし、そうなるようなことをした覚えがない。虐げていた私が、哀れになっていったということだろうか。
「ミルティア様は、オルドス様の初恋の女性であるらしいのです」
「……なんですって?」
私は、シャルルナさんの言葉に耳を疑った。
オルドス様の初恋が、私である。それは私にとって、まったく持って信じられないことだった。
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