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17.動揺するのは

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「まあ、とりあえず、イルフェン、お前の婚約が決まった訳だ。まずは相手が誰かということを話すべきだな」
「……ええ、お願いします」
「相手は、ロナッセン公爵家の次女リフェルナ嬢だ」
「……そうですか」

 お父様の言葉に、イルフェンお兄様は短く答えた。
 その答えは、なんというか少し歯切れが悪い。

「む? どうかしたのか? なんだか、反応が薄いような気がするが……」
「いえ……」

 お父様も同じことを思ったらしく、お兄様に質問をした。
 その質問に対して、お兄様は考えるような仕草をする。恐らく、自分でもどうしてそのような反応になったのか、よくわかっていないのだろう。

「あまり実感が湧かないとでもいうのでしょうか……」
「実感か……確かに、話に聞いただけではまだわからないか」

 お兄様の言葉に、私は納得した。
 確かに、実感が湧いていないなら、先程のような乾いた返事になるだろう。

 クレイド様やアルリッド様も、婚約に対して実感が湧いていないと言っていた。
 もしかして、皆そのような感じなのだろうか。

 いや、お兄様の場合はそうではないかもしれない。
 今、彼は突然婚約を知らされて、ただ婚約者が誰なのかを聞かされただけだ。その状態で、実感が湧くというのは無理があるだろう。

「もちろん、務めはきちんと果たすつもりです。ご心配なく」
「ああ、お前のことは信頼している。その辺りのことは、心配していないさ。しかし、流石のお前でも、このようなことを突然言われたら動揺するのだな」
「父上は、俺をどのような人間だと思っているのですか?」
「いや、別にけなしている訳ではないのだ。お前は、いつも動じないと思っていただけだ」

 お父様は、イルフェンお兄様が平静ではないことに驚いているようだ。
 確かに、彼はいつも冷静である。度胸もあって、他の貴族と会う時も堂々としている。

 しかし、私はお兄様が結構感情豊かだと知っているため、この反応にまったく驚きはない。
 お父様は知らないかもしれないが、お兄様は私のことやウェリーナお姉様のことでひどく動揺したりする。そういう所は、お父様にそっくりなのだ。

「まあ、何はともあれ、婚約が決まったのはめでたいことだ。これからのことは追って連絡する。頼んだぞ、イルフェン」
「はい。もちろんです、父上」

 お父様の言葉に、お兄様は力強く頷いた。
 今は動揺しているが、お兄様ならきっと婚約者とも上手くやっていくだろう。
 基本的には優しい人ではあるので、相手が余程捻くれた人でもない限りは、大丈夫なはずだ。
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