上 下
11 / 22

11.子爵家の人々

しおりを挟む
 パステルト子爵家で昼食をいただくことになった私は、夫妻以外の面々と顔を合わせることになった。
 夫妻には息子が二人おり、それぞれラディオルとレフォルドという名前であるそうだ。
 その二人のことは、知らないという訳ではない。舞踏会とか、そういった場で顔を見たことがあるような気がする。いや、あまり自信はないのだが。

 兄であるラディオル様は既に結婚しているらしく、その奥様のマルリアさんもいた。
 彼女も夫妻に負けず劣らずニコニコしており、義理の娘であるというのに、何故か兄弟よりも夫妻に似ている。
 彼女とも会ったことはないと思うのだが、やはり自信はない。まあ面と向かって話したことはないだろうし、ここは初めましてで多分いいだろう。

「初めまして、ラディオル様、レフォルド様、マルリア様。イルファリアと申します」
「イルファリア嬢、こんにちは。すまいな、父上や母上が無理を言って」
「いえ、無理なんてことは」

 ラディオル様は、私のことを気遣うような言葉をかけてくれた。家族の食事に同席する気まずさというものを、理解しているのだろう。
 もしかしたら、こういうことはよくあったのかもしれない。あの夫妻のことだ。いつも心からの厚意で、人をもてなしているのではないだろうか。

「まあ、私も昔同じようなことがあったけど、あまり気負わないでもいいからね。お義父様もお義母様も、驚くくらいに怒らない人達だから」
「そうなのですか……まあ、そうなのでしょうね」
「やっぱり、わかるかしら?」
「ええ、なんとなく、ですが……」

 私の言葉に、マルリアさんは苦笑いを浮かべていた。
 嫁入りした彼女は、あの夫妻に恐らく戸惑っただろう。その光景は想像できる。

「もちろん、僕達もイルファリア嬢のことを歓迎していますからね」
「ありがとうございます、レフォルド様」

 レフォルド様も、私に対して笑顔を見せてくれた。
 三人も歓迎してくれるということは、よくわかった。なんというか、この一家は皆いい人なのだろう。それがこれまでの態度から伝わってくる。

「さて、もうすぐ料理が運ばれてきますから、自己紹介はここまでにしておきましょう。さあ、イルファリア嬢、席にどうぞ」
「すみません、レフォルド様」

 レフォルド様が椅子を引いてくれたので、私はそこに座った。
 なんというか、肩の荷が少し下りたような気がする。食事が始まる前に、三人と話せて良かったと思う。
 私の目の前では豪勢な食事が運び込まれている。せっかくなので、その食事を楽しむとしようか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

公爵令嬢の私を捨てておきながら父の元で働きたいとは何事でしょう?

白山さくら
恋愛
「アイリーン、君は1人で生きていけるだろう?僕はステファニーを守る騎士になることにした」浮気相手の発言を真に受けた愚かな婚約者…

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】友人と言うけれど・・・

つくも茄子
恋愛
ソーニャ・ブルクハルト伯爵令嬢には婚約者がいる。 王命での婚約。 クルト・メイナード公爵子息が。 最近、寄子貴族の男爵令嬢と懇意な様子。 一時の事として放っておくか、それとも・・・。悩ましいところ。 それというのも第一王女が婚礼式の当日に駆け落ちしていたため王侯貴族はピリピリしていたのだ。 なにしろ、王女は複数の男性と駆け落ちして王家の信頼は地の底状態。 これは自分にも当てはまる? 王女の結婚相手は「婚約破棄すれば?」と発破をかけてくるし。 そもそも、王女の結婚も王命だったのでは? それも王女が一目惚れしたというバカな理由で。 水面下で動く貴族達。 王家の影も動いているし・・・。 さてどうするべきか。 悩ましい伯爵令嬢は慎重に動く。

処理中です...