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15.明かされる事実
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「私の両親が、どうして私を精霊の森に置き去りにしたのか。それは確かにわからないことだけど……」
『そういうことではない。お前自身の認識の話を我はしているのだ』
「認識?」
『生まれ育った……お前は、無意識の内にその言葉を使っているのだろう。それは、自らの出自を本能でわかっているからなのではないか?』
「私の出自……」
龍の言葉に、私は考える。
私の出自を、私は本能で理解している。それは、どういうことなのだろうか。
「生まれ……育った?」
『ふっ……』
そこで、私は理解した。
そういえば、私はどうしてあの精霊の森で生まれ育ったと言っているのだろうか。
私は確かにあの森で育った。
だが、生まれたのはあそこではないかもしれない。どこか別の場所で生まれて、置き去りにされた。その可能性の方が、むしろ高いはずである。
それなのに、私はずっとあの精霊の森で生まれ育ったと言っていた。
育ったのではなく、生まれ育った。その認識は、考えてみればおかしなものだ。
『お前のその認識は、何も間違ってはいない。なぜなら、お前はあの精霊の森で実際に生まれ育ったからだ』
「私の両親は、精霊の森にいたということ? 何か事情があって、私をあの大樹の傍に置き去りにして、消えたの?」
『そうではないことをお前はもうわかっているだろう』
「でも、そんなことが……」
龍の言う通り、私の頭の中にはある考えが過っていた。
だが、そんなことがあり得るのだろうか。その疑問が、私にその考えを押しのけさせたのである。
しかし、龍の口振りからして、その考えの方が正しいのだろう。
「……私は、あの大樹から生まれたというの?」
『……その通りだ』
「そんな馬鹿な……」
大樹から私が生まれた。それは、普通に考えてあり得ないことだ。
植物は植物から生まれてくる。動物は動物から生まれてくる。それは、揺らぐことがない自然の摂理だ。
だが、私の出自はその理から外れている。大樹から人間が生まれてくるなんて、そんなことがあるのだろうか。
「……え?」
そんなことを考えている私の中に、ふと先程までの問答が流れ込んできた。
確か、龍は大樹のためにエルドー王国を襲おうとしている。それは、大樹が彼にとって大切なものだったからだろう。
その龍が、私も大切だと思っている。それは、大樹が大切だったからとも考えられる。
だが、もう一つの考えが過ってくる。
大樹が大切で、その子供も大切に思っている。
そういう考えを持っていて、一番わかりやすい立場にあるのは、一体誰だろうか。
「まさか……あなたは」
『……さて、そろそろ目覚めるべき時だ』
「待って! まだ、あなたには聞きたいことが!」
『再び忠告しておく。エルドー王国には近づくな。また我にも近づくな。お前はただ、生まれ育った場所でじっとしていればいい』
「うっ……!」
龍の言葉と同時に、私の視界は渦を巻き始めた。
それが目覚めの兆候であるということは、私にも理解できた。
私は、それになんとか抗おうとする。まだ龍に聞きたいことが、あったからだ。
「……はっ!」
しかし、抵抗も虚しく私は目を覚ますのだった。
『そういうことではない。お前自身の認識の話を我はしているのだ』
「認識?」
『生まれ育った……お前は、無意識の内にその言葉を使っているのだろう。それは、自らの出自を本能でわかっているからなのではないか?』
「私の出自……」
龍の言葉に、私は考える。
私の出自を、私は本能で理解している。それは、どういうことなのだろうか。
「生まれ……育った?」
『ふっ……』
そこで、私は理解した。
そういえば、私はどうしてあの精霊の森で生まれ育ったと言っているのだろうか。
私は確かにあの森で育った。
だが、生まれたのはあそこではないかもしれない。どこか別の場所で生まれて、置き去りにされた。その可能性の方が、むしろ高いはずである。
それなのに、私はずっとあの精霊の森で生まれ育ったと言っていた。
育ったのではなく、生まれ育った。その認識は、考えてみればおかしなものだ。
『お前のその認識は、何も間違ってはいない。なぜなら、お前はあの精霊の森で実際に生まれ育ったからだ』
「私の両親は、精霊の森にいたということ? 何か事情があって、私をあの大樹の傍に置き去りにして、消えたの?」
『そうではないことをお前はもうわかっているだろう』
「でも、そんなことが……」
龍の言う通り、私の頭の中にはある考えが過っていた。
だが、そんなことがあり得るのだろうか。その疑問が、私にその考えを押しのけさせたのである。
しかし、龍の口振りからして、その考えの方が正しいのだろう。
「……私は、あの大樹から生まれたというの?」
『……その通りだ』
「そんな馬鹿な……」
大樹から私が生まれた。それは、普通に考えてあり得ないことだ。
植物は植物から生まれてくる。動物は動物から生まれてくる。それは、揺らぐことがない自然の摂理だ。
だが、私の出自はその理から外れている。大樹から人間が生まれてくるなんて、そんなことがあるのだろうか。
「……え?」
そんなことを考えている私の中に、ふと先程までの問答が流れ込んできた。
確か、龍は大樹のためにエルドー王国を襲おうとしている。それは、大樹が彼にとって大切なものだったからだろう。
その龍が、私も大切だと思っている。それは、大樹が大切だったからとも考えられる。
だが、もう一つの考えが過ってくる。
大樹が大切で、その子供も大切に思っている。
そういう考えを持っていて、一番わかりやすい立場にあるのは、一体誰だろうか。
「まさか……あなたは」
『……さて、そろそろ目覚めるべき時だ』
「待って! まだ、あなたには聞きたいことが!」
『再び忠告しておく。エルドー王国には近づくな。また我にも近づくな。お前はただ、生まれ育った場所でじっとしていればいい』
「うっ……!」
龍の言葉と同時に、私の視界は渦を巻き始めた。
それが目覚めの兆候であるということは、私にも理解できた。
私は、それになんとか抗おうとする。まだ龍に聞きたいことが、あったからだ。
「……はっ!」
しかし、抵抗も虚しく私は目を覚ますのだった。
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