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第26話 狂気の刃
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「ち、違う……僕じゃない、僕じゃないんだ……」
「デルケル様、罪を認めてください。あなたに、王族としての誇りがあるなら、せめてそれくらいはしてください」
「う、うるさい……!」
私はさらに、デルケルに揺さぶりをかけていく。
ここで、デルケルが罪を認めてくれれば、とても話は早い。これ以上、議論を長引かせるのも億劫だ。できれば、これで終わって欲しい。
「そうだ……最初から、あいつが悪いんだ。あいつさえいなければ……」
「デルケル様?」
しかし、そこでデルケルの様子が変わった。
なんというか、正気ではない様子だ。もしかしたら、少し追い詰めすぎたのかもしれない。
私の額から、汗が流れてくる。とても嫌な予感がするのだ。
「くそっ!」
「ああっ!」
私がそう思った直後、デルケルが動いた。
懐から、小さなナイフを出して、私に向かってきたのだ。
恐らく、私に対する憎しみから、そのような行動に出たのだろう。やはり、少々追い詰めすぎてしまったようだ。
このままでは、私は刺されてしまう。それは理解できているのに、体が動いてくれない。咄嗟の出来事であることと、ナイフを向けられているという恐怖心から、私の体が動かなくなっていたのだ。
「きゃあ!」
私にできたのは、目を瞑り、叫び声をあげることだけだった。
だが、いくら待っても、私の体に刃が刺さることはない。私は、ゆっくりと目を開けて、周囲の様子を確認する。
「うぐっ……」
「デルケル……姉さんに手を出すなど、僕は許さないぞ……」
「ア、アルス!? あなた……」
そこには、デルケルのナイフを受け止めたアルスがいた。
アルスは、その両手で強引にデルケルのナイフを持ち、その動きを止めていた。
アルスの手からは、血が出ている。明らかに、大丈夫ではなさそうだ。
「つ、捕まえろ!」
「はっ!」
次の瞬間、王城の兵士達が動き始めた。
この状況で、デルケルを擁護する者などいないだろう。
彼等は既に、第一王子ダムドの手がかかっている。前と同じように、デルケルに協力することなどできないのだ。
「ア、アルス、あなた、なんて無茶を……」
「大丈夫さ。姉さんを守れたんだ。これくらい、どうってことはない」
兵士達が、デルケルを取り押さえている中、私はアルスの傍に寄っていた。
アルスの手は、ナイフによってかなり傷ついている。
私を守るために、アルスが傷ついたのだ。私は、申し訳なさでいっぱいになっていた。
「ごめんなさい、アルス……私のせいで……」
「姉さんのせいじゃないさ。デルケルが悪いんだから……でも、怪我がなくて本当によかったよ」
「アルス……」
「姉さん、泣かないで……」
思わず涙を流していた私に、アルスは笑顔を向けてくる。
本当に、アルスは強い弟だ。こんな時にも、私に心配をかけまいとしてくれる。
「アルス、すぐに医者に診てもらいましょう。私も、付き添うわ」
「でも姉さん、デルケルは……」
「それは、ダムド様がなんとかしてくれるわ。今は、それよりあなたの体の方が大事よ」
私は、デルケルのことなど放っておくことにした。
デルケルは、ダムドも裁くつもりだったため、後は彼がなんとかしてくれるだろう。
私の目的は、自身の無実を証明することと、犯人を突き止めることだった。それは、既に果たされているのだ。
いや、今は例えそれが果たせていなくても、アルスに付き添いたいと思っている。弟の危機に、自身のことなど考えている場合ではないのだ。
こうして、私とデルケルとの戦いは終わるのだった。
「デルケル様、罪を認めてください。あなたに、王族としての誇りがあるなら、せめてそれくらいはしてください」
「う、うるさい……!」
私はさらに、デルケルに揺さぶりをかけていく。
ここで、デルケルが罪を認めてくれれば、とても話は早い。これ以上、議論を長引かせるのも億劫だ。できれば、これで終わって欲しい。
「そうだ……最初から、あいつが悪いんだ。あいつさえいなければ……」
「デルケル様?」
しかし、そこでデルケルの様子が変わった。
なんというか、正気ではない様子だ。もしかしたら、少し追い詰めすぎたのかもしれない。
私の額から、汗が流れてくる。とても嫌な予感がするのだ。
「くそっ!」
「ああっ!」
私がそう思った直後、デルケルが動いた。
懐から、小さなナイフを出して、私に向かってきたのだ。
恐らく、私に対する憎しみから、そのような行動に出たのだろう。やはり、少々追い詰めすぎてしまったようだ。
このままでは、私は刺されてしまう。それは理解できているのに、体が動いてくれない。咄嗟の出来事であることと、ナイフを向けられているという恐怖心から、私の体が動かなくなっていたのだ。
「きゃあ!」
私にできたのは、目を瞑り、叫び声をあげることだけだった。
だが、いくら待っても、私の体に刃が刺さることはない。私は、ゆっくりと目を開けて、周囲の様子を確認する。
「うぐっ……」
「デルケル……姉さんに手を出すなど、僕は許さないぞ……」
「ア、アルス!? あなた……」
そこには、デルケルのナイフを受け止めたアルスがいた。
アルスは、その両手で強引にデルケルのナイフを持ち、その動きを止めていた。
アルスの手からは、血が出ている。明らかに、大丈夫ではなさそうだ。
「つ、捕まえろ!」
「はっ!」
次の瞬間、王城の兵士達が動き始めた。
この状況で、デルケルを擁護する者などいないだろう。
彼等は既に、第一王子ダムドの手がかかっている。前と同じように、デルケルに協力することなどできないのだ。
「ア、アルス、あなた、なんて無茶を……」
「大丈夫さ。姉さんを守れたんだ。これくらい、どうってことはない」
兵士達が、デルケルを取り押さえている中、私はアルスの傍に寄っていた。
アルスの手は、ナイフによってかなり傷ついている。
私を守るために、アルスが傷ついたのだ。私は、申し訳なさでいっぱいになっていた。
「ごめんなさい、アルス……私のせいで……」
「姉さんのせいじゃないさ。デルケルが悪いんだから……でも、怪我がなくて本当によかったよ」
「アルス……」
「姉さん、泣かないで……」
思わず涙を流していた私に、アルスは笑顔を向けてくる。
本当に、アルスは強い弟だ。こんな時にも、私に心配をかけまいとしてくれる。
「アルス、すぐに医者に診てもらいましょう。私も、付き添うわ」
「でも姉さん、デルケルは……」
「それは、ダムド様がなんとかしてくれるわ。今は、それよりあなたの体の方が大事よ」
私は、デルケルのことなど放っておくことにした。
デルケルは、ダムドも裁くつもりだったため、後は彼がなんとかしてくれるだろう。
私の目的は、自身の無実を証明することと、犯人を突き止めることだった。それは、既に果たされているのだ。
いや、今は例えそれが果たせていなくても、アルスに付き添いたいと思っている。弟の危機に、自身のことなど考えている場合ではないのだ。
こうして、私とデルケルとの戦いは終わるのだった。
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