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23.追い詰められた伯爵(モブ視点)
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リヴェルト伯爵は焦っていた。
ことの発端は、大したことでもなかった。プレリアが舞踏会の場において、傷害事件を起こしたのである。
それ自体は、まだなんとかできる範疇ではあった。気に食わないことではあるが、相手に謝罪して真摯な対応をすれば、ことを納められたのである。
だが、そうはならなかった。その事件を発端にリヴェルト伯爵家に対する調査が行われて、結果として様々な悪事が表に出ることになったのだ。
この結果に関して、リヴェルト伯爵はベレイン伯爵家の関与を疑っていた。婚約破棄をしたことによって低くなかった評価を回復させるために、リヴェルト伯爵家の評価を落としているのではないかと、彼は思っているのだ。
しかしながら、裏で誰が手を引いていたとしても、それは今の状況にはそれ程関係がないことだった。
今を切り抜けることができなければ、全てが終わる。リヴェルト伯爵はそのことについて、良く認識していた。
「さ、触らないでください」
「うるさい! 大人くしろ!」
「プレリア……!」
「あんたもだ。静かにしてもらおうか」
リヴェルト伯爵家の屋敷を、ある者達が訪ねて来た。
その者達は、伯爵が協力していた者達である。彼らが国家からの介入を嫌っていることなど明白だ。故にリヴェルト伯爵は、自分がどうなるかを想像して汗を流していた。
「……あんたが失脚すると困るものだ。幅を利かせられなくなってしまう」
「そ、それなら協力しろ。お前達の力があれば、この状況だって……」
「どうにかできる訳ないだろうが。俺達だって、流石に国家が本気になったら敵わないさ。だからこそ、繋がりというものは消去しておかなければならない。わかるだろう?」
目の前の男は、リヴェルト伯爵に対して鋭い視線を向けていた。
最早彼のことを助けてくれる者などはいない。権力を著しく失っている伯爵に、後ろ盾というものはないのだ。
「だけど、俺も鬼や悪魔って訳でもない。娘と妻については、命くらいは助けてやるさ。二人には商品価値もある。他国に売り飛ばせば、高額で売れる」
「売る……この私を、売るなんて――!」
「黙ってろ!」
「うぐっ……!」
「プレリア! あ、あなた達……」
「あんたもだ」
「いやあっ!」
必死に抵抗している妻子を見ながらも、リヴェルト伯爵の頭は自分のことでいっぱいだった。
このままでは、命がない。それを悟った彼は、なんとか逃げることを思案していた。しかし背中を向けたら最後だ。彼に容赦や情けなどはない。
状況を整理して、リヴェルト伯爵は自分が助からないという結論を出さざるを得なかった。その結論に達した瞬間、彼の中で何かがはじけた。
「ひひっ……あははははっ!」
「お、お父様?」
「あなた、何をっ……」
「壊れたか……」
リヴェルト伯爵が虚ろな目で笑い出したのを見て、男は呆れたような顔をした。
それから彼は、周囲を見渡す。今は部下達が、リヴェルト伯爵家と自分達の関与を示すものを見つけ出している所だ。
「……証拠を回収したら、引き上げるぞ」
「いいんですか? こいつは……」
「この状態では、証言なんてこともできないだろう。まあ、元伯爵を手にかけるとそれはそれでリスクがあるからな。それで王国から目をつけられる可能性は高い。どの道この国からはおさらばする。それまでの間、時間が稼げるだけでも良い」
男は、リヴェルト伯爵を手にかけることに対するリスクを危惧していた。
故に彼が狂って証言ができない状態になら、そのまま放っておく方が自分達にとって有益だと思ったのである。
「こいつらを売り払ったら、メルセデス王国を目指す。船の手配をしておけ。もちろん、秘密裏にな……」
「ええ、もちろんです」
結果として、彼らとリヴェルト伯爵の関与は判明しなかった。
隠蔽工作により証拠は亡くなり、伯爵も証言できる状態ではないからだ。
しかしながら彼らがメルセデス王国に辿り着くこともなかった。秘密裏に手配した船は嵐に会い、沈没したのである。そのことを知る者は、誰もいない。彼らは海に消えていったのだ。
ことの発端は、大したことでもなかった。プレリアが舞踏会の場において、傷害事件を起こしたのである。
それ自体は、まだなんとかできる範疇ではあった。気に食わないことではあるが、相手に謝罪して真摯な対応をすれば、ことを納められたのである。
だが、そうはならなかった。その事件を発端にリヴェルト伯爵家に対する調査が行われて、結果として様々な悪事が表に出ることになったのだ。
この結果に関して、リヴェルト伯爵はベレイン伯爵家の関与を疑っていた。婚約破棄をしたことによって低くなかった評価を回復させるために、リヴェルト伯爵家の評価を落としているのではないかと、彼は思っているのだ。
しかしながら、裏で誰が手を引いていたとしても、それは今の状況にはそれ程関係がないことだった。
今を切り抜けることができなければ、全てが終わる。リヴェルト伯爵はそのことについて、良く認識していた。
「さ、触らないでください」
「うるさい! 大人くしろ!」
「プレリア……!」
「あんたもだ。静かにしてもらおうか」
リヴェルト伯爵家の屋敷を、ある者達が訪ねて来た。
その者達は、伯爵が協力していた者達である。彼らが国家からの介入を嫌っていることなど明白だ。故にリヴェルト伯爵は、自分がどうなるかを想像して汗を流していた。
「……あんたが失脚すると困るものだ。幅を利かせられなくなってしまう」
「そ、それなら協力しろ。お前達の力があれば、この状況だって……」
「どうにかできる訳ないだろうが。俺達だって、流石に国家が本気になったら敵わないさ。だからこそ、繋がりというものは消去しておかなければならない。わかるだろう?」
目の前の男は、リヴェルト伯爵に対して鋭い視線を向けていた。
最早彼のことを助けてくれる者などはいない。権力を著しく失っている伯爵に、後ろ盾というものはないのだ。
「だけど、俺も鬼や悪魔って訳でもない。娘と妻については、命くらいは助けてやるさ。二人には商品価値もある。他国に売り飛ばせば、高額で売れる」
「売る……この私を、売るなんて――!」
「黙ってろ!」
「うぐっ……!」
「プレリア! あ、あなた達……」
「あんたもだ」
「いやあっ!」
必死に抵抗している妻子を見ながらも、リヴェルト伯爵の頭は自分のことでいっぱいだった。
このままでは、命がない。それを悟った彼は、なんとか逃げることを思案していた。しかし背中を向けたら最後だ。彼に容赦や情けなどはない。
状況を整理して、リヴェルト伯爵は自分が助からないという結論を出さざるを得なかった。その結論に達した瞬間、彼の中で何かがはじけた。
「ひひっ……あははははっ!」
「お、お父様?」
「あなた、何をっ……」
「壊れたか……」
リヴェルト伯爵が虚ろな目で笑い出したのを見て、男は呆れたような顔をした。
それから彼は、周囲を見渡す。今は部下達が、リヴェルト伯爵家と自分達の関与を示すものを見つけ出している所だ。
「……証拠を回収したら、引き上げるぞ」
「いいんですか? こいつは……」
「この状態では、証言なんてこともできないだろう。まあ、元伯爵を手にかけるとそれはそれでリスクがあるからな。それで王国から目をつけられる可能性は高い。どの道この国からはおさらばする。それまでの間、時間が稼げるだけでも良い」
男は、リヴェルト伯爵を手にかけることに対するリスクを危惧していた。
故に彼が狂って証言ができない状態になら、そのまま放っておく方が自分達にとって有益だと思ったのである。
「こいつらを売り払ったら、メルセデス王国を目指す。船の手配をしておけ。もちろん、秘密裏にな……」
「ええ、もちろんです」
結果として、彼らとリヴェルト伯爵の関与は判明しなかった。
隠蔽工作により証拠は亡くなり、伯爵も証言できる状態ではないからだ。
しかしながら彼らがメルセデス王国に辿り着くこともなかった。秘密裏に手配した船は嵐に会い、沈没したのである。そのことを知る者は、誰もいない。彼らは海に消えていったのだ。
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