甘やかされて育った妹が何故婚約破棄されたかなんて、わかりきったことではありませんか。

木山楽斗

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20.男爵からのお願い

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「秘書、ですか?」
「ええ、あなたにお願いしたいのです」

 ミルドレッド男爵は、私の目を真っ直ぐに見て驚くべきことを言ってきた。
 彼が私に任せたいこととは、男爵の秘書という中々に微妙な立ち位置のものであるようだ。
 それは本当に、必要なものなのだろうか。私は少々、考えることになった。これはミルドレッド男爵が私をここに置いておくための理由のために、わざわざ作った役割なのではないだろうか。

「ミルドレッド男爵、一応私は色々なことができるつもりです。リヴェルト伯爵家では冷遇されていましたが、教育はきちんと受けさせてもらっています。ですから、普通に働くことも可能だと思っているのですが……」
「いえ、別に無理やりに作ったものという訳ではありませんよ。私は本当に必要だと思っているから、あなたを頼りたいのです」

 私の言葉の意図を、ミルドレッド男爵は理解したようだ。
 その上で彼は、私の言葉を否定している。その言葉に嘘はなさそうだ。ということは、本気で秘書が欲しいと思っているということになる。

「ミルドレッド男爵は、私に一体どのような役割を望んでいるのですか?」
「色々と指導してもらいたいと思っている。というのも、ミルドレッド男爵家というものは、そこまできちんとした貴族ではないのだ。全体的に大らかというべきか……民との距離が近しい貴族なのだ」
「……それは、悪いことでもないと思います」

 ミルドレッド男爵は、少し自信がなさそうに言葉を発していた。
 しかし、貴族として民との距離が近いことをどう考えるかは、人それぞれだ。民との距離が近いということは、慕われやすくなるということである。

「しかし、良いことでもありません。ネセリア嬢も、そう思っているのではありませんか?」
「……まあ、線引きが薄くなるのはまずいことでもあるとは思いますが」
「ミルドレッド男爵家は、そのやり方で成り上ってきました。ですが、何れは転換が必要だと思っています。何も全てを変えるという訳ではなく、学んでおきたいのです。それぞれのやり方というものを」
「なるほど、それで一番良い具合にしたいということですか?」
「ええ、そんな所です」

 ミルドレッド男爵は、色々な視点を学んでおきたいということなのだろう。
 そういうことなら、私にも力になれるだろうか。ただ問題は、私がそこまできっちりと線引きを引くタイプかと言われると、微妙な所であるということだ。

「その、私はそこまで貴族としてきちんと過ごしていた訳ではありません。どこまで力になれるかはわからないのですが……」
「いえいえ、大切なのは視点です。あなたは伯爵家で過ごしてきました。男爵家よりも高位の家で過ごしていた以上、見えていたものはあったでしょう。その辺りについて教えていただきたいのです。もちろん、雑務もこなしてもらいますが……」
「……わかりました。そういうことなら」

 私は、ミルドレッド男爵の提案にとりあえず頷いた。
 色々と心配はあるが、これは良い話である。とりあえず受けてみて、ミルドレッド男爵が満足するかどうかを確かめてみるべきだろう。
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