15 / 24
15.とりあえずの避難
しおりを挟む
私は、マレイド様にミルドレッド男爵家の屋敷に連れて来てもらっていた。とりあえずの非難場所として、屋敷の一室を貸してもらえることになったのだ。
男爵家の屋敷の一室をとりあえずの避難場所にするのは、なんとも贅沢な話ではある。その提案をしてくれたマレイド様には、感謝の気持ちしかない。
「大叔母様からある程度の話は聞いていましたが、リヴェルト伯爵家は中々にひどい状態であるようですね……」
「そうですね……まあ、当然そういう評価にはなりますよね」
「もちろん、男爵家と伯爵家では色々と事情も異なるでしょうが、同じ貴族の端くれとしては信じられないような判断です」
「はっきりと言って、愚かな選択としか言いようがないと思います」
屋敷への道中、私はマレイド様に事情を説明していた。
彼は今回リヴェルト伯爵家が取った行動について、困惑しているようだった。
それは当然のことである。プレリアの感情に左右されるその判断は、貴族としては間違ったものでしかない。普通に考えれば、意味がわからないものだ。
「といっても、今回は紆余曲折ありましたが、ベレイン伯爵家からの婚約破棄です。内情は知られていませんから、リヴェルト伯爵家はそこまで痛手を負わないのかもしれません」
「ベレイン伯爵家――バルーガ伯爵令息は、それでも婚約を破棄した方が良いと思ったのでしょうね。彼からしてみれば、一刻も早くリヴェルト伯爵家との関係を断ち切りたかったのかもしれません。何かしらの被害を受ける可能性はありますからね」
「多分、そういうことなのだと思います」
バルーガ様は、迅速に判断を下した。それはリヴェルト伯爵家が、いつ不祥事を起こすのかわからなかったからだろう。それによって、ベレイン伯爵家が受ける不評被害を危惧したのだ。
被害を受けないためには、関係を切り捨てるのが一番である。それが例え強引な手であっても――いや、強引な手であるからこそ、関係がないことはむしろ強調されるかもしれない。
その辺りも計算して、バルーガ様は婚約を破棄したのだろうか。それはわからない。ただ明白なのは、彼はリヴェルト伯爵家が何かをやらかすと思っているということだ。
それについては、私も正直異論はない。リヴェルト伯爵は、まず間違いなく何かをやらかす。それはもしかしたら意外と近い将来の話かもしれない。
「……恐らく、マリーサさんがいなくなったことが影響しているのだと思います」
「大叔母様の影響、ですか?」
「ええ、彼女は使用人の中でも古株で、お父様にも意見が言えて、それがある程度通っていました。抑止力とでも言うべきでしょうか。とにかく、マリーサさんがいなくなった今、お父様は暴君です。私を追放したように、何かをするかもしれません」
今回の件で改めてよくわかったことだが、マリーサさんはリヴェルト伯爵家を辛うじて繋ぎ止めてくれていたのだろう。
先代――お祖父様やお祖母様の時代は、まともだったと聞いている。その意思をマリーサさんは、示してくれていたのかもしれない。
だけどお父様は、結局理解することができなかったのだ。そもそもあの人を当主としたことが、間違いだったのかもしれない。
男爵家の屋敷の一室をとりあえずの避難場所にするのは、なんとも贅沢な話ではある。その提案をしてくれたマレイド様には、感謝の気持ちしかない。
「大叔母様からある程度の話は聞いていましたが、リヴェルト伯爵家は中々にひどい状態であるようですね……」
「そうですね……まあ、当然そういう評価にはなりますよね」
「もちろん、男爵家と伯爵家では色々と事情も異なるでしょうが、同じ貴族の端くれとしては信じられないような判断です」
「はっきりと言って、愚かな選択としか言いようがないと思います」
屋敷への道中、私はマレイド様に事情を説明していた。
彼は今回リヴェルト伯爵家が取った行動について、困惑しているようだった。
それは当然のことである。プレリアの感情に左右されるその判断は、貴族としては間違ったものでしかない。普通に考えれば、意味がわからないものだ。
「といっても、今回は紆余曲折ありましたが、ベレイン伯爵家からの婚約破棄です。内情は知られていませんから、リヴェルト伯爵家はそこまで痛手を負わないのかもしれません」
「ベレイン伯爵家――バルーガ伯爵令息は、それでも婚約を破棄した方が良いと思ったのでしょうね。彼からしてみれば、一刻も早くリヴェルト伯爵家との関係を断ち切りたかったのかもしれません。何かしらの被害を受ける可能性はありますからね」
「多分、そういうことなのだと思います」
バルーガ様は、迅速に判断を下した。それはリヴェルト伯爵家が、いつ不祥事を起こすのかわからなかったからだろう。それによって、ベレイン伯爵家が受ける不評被害を危惧したのだ。
被害を受けないためには、関係を切り捨てるのが一番である。それが例え強引な手であっても――いや、強引な手であるからこそ、関係がないことはむしろ強調されるかもしれない。
その辺りも計算して、バルーガ様は婚約を破棄したのだろうか。それはわからない。ただ明白なのは、彼はリヴェルト伯爵家が何かをやらかすと思っているということだ。
それについては、私も正直異論はない。リヴェルト伯爵は、まず間違いなく何かをやらかす。それはもしかしたら意外と近い将来の話かもしれない。
「……恐らく、マリーサさんがいなくなったことが影響しているのだと思います」
「大叔母様の影響、ですか?」
「ええ、彼女は使用人の中でも古株で、お父様にも意見が言えて、それがある程度通っていました。抑止力とでも言うべきでしょうか。とにかく、マリーサさんがいなくなった今、お父様は暴君です。私を追放したように、何かをするかもしれません」
今回の件で改めてよくわかったことだが、マリーサさんはリヴェルト伯爵家を辛うじて繋ぎ止めてくれていたのだろう。
先代――お祖父様やお祖母様の時代は、まともだったと聞いている。その意思をマリーサさんは、示してくれていたのかもしれない。
だけどお父様は、結局理解することができなかったのだ。そもそもあの人を当主としたことが、間違いだったのかもしれない。
440
お気に入りに追加
850
あなたにおすすめの小説

この国では魔力を譲渡できる
ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」
無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。
五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる