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12.婚約者の怒り

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「プレリア嬢、言っておきたいことがある」
「は、はい。なんですか?」
「俺はあなたのような者が嫌いだ」
「……え?」

 バルーガ様の呼びかけに少し期待したような表情をしていたプレリアだったが、その希望は呆気なく打ち砕かれることになった。
 バルーガ様は、愚かなる妹を睨みつけている。その目に宿っているのは、明らかな敵意だ。彼はプレリアのことを、かなり快く思っていないようである。

「貴族の婚約というものは、契約だ。リヴェルト伯爵家は、その契約を反故にしようとしている」
「い、いえ、そんなつもりはありません。私はただ、お姉様との婚約を私との婚約にしようと……」
「俺を婿としようとしているそうじゃないか?」
「それは……仕方ないことでしょう。このお姉様が、リヴェルト伯爵家を支配したら、全てが終わります」

 バルーガ様の言葉に、プレリアはゆっくりと首を振った。
 彼女は、少しも悪びれていない。この妹は、世界が自分を中心に回っていると思っているのだろう。バルーガ様やベレイン伯爵家の被害などは、まったく気にしていないようだ。
 そんな妹を、バルーガ様は軽蔑しているのか目を細めていた。どうやら二人の相性は悪いらしい。いや、プレリアと相性が良い人間なんて存在しないか。

「あなたは自分のことしか考えていない訳だな。どうやら我々ベレイン伯爵家は間違いを犯したらしい。リヴェルト伯爵家との婚約などはするべきではなかったのだな」

 そこでバルーガ様は、私の方を少しだけ見た。
 その目には、少しばかり寂しそうな気がする。私には期待してくれていたため、残念がっているのだろうか。
 いや、それは私の思い上がりだ。結局の所、私もリヴェルト伯爵家の一員でしかない。今回の件も、まったく持って止めることもできていないのだから。

「俺の一存で、リヴェルト伯爵家との婚約は破棄させてもらう」
「は、破棄? 婚約破棄ですって?」

 プレリアは、バルーガ様の言葉にかなり動揺していた。この期に及んで、まだ驚く余地があるとは驚きだ。話の流れは、どう考えても悪かったというのに。
 とはいえ、私の方もまったく持って動揺していないという訳でもない。予想はしていたが、流石に衝撃があった。

「バルーガ様、どういうことですか! 私との婚約がそんなに嫌だと?」
「ああ、嫌だとも。俺はあなたのような人と婚約する気にはなれない。それは最早、ネセリア嬢との婚約でも変わらない。リヴェルト伯爵との婚約は我々にとっては不利益だ」

 バルーガ様は、ゆっくりと首を振った。
 彼は、リヴェルト伯爵家と決裂するつもりであるらしい。
 それは正しい判断であるだろう。私が言うのもなんだが、リヴェルト伯爵家はまともではないのだから。
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