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1.唯一の味方

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 リヴェルト伯爵家に生まれた私は、決して幸福な人生を歩んではいなかった。
 生まれてから程なくして実の母が死に、それからは継母と腹違いの妹とともに、暮らしていくことになった。

 その二人、さらには実の父親さえも、私のことを疎んでいる。れっきとしたリヴェルト伯爵家の血を継ぐ私は、ほとんど家族として扱われていないのだ。
 そこにはきっと、合理的な理由などはないのだろう。あの三人はきっと、私のことを体のいいストレス解消道具くらいにしか思っていないのである。

 そんな環境で、私は育ってきた。
 しかしだからといって、性格は捻じ曲がっているという訳でもないと思っている。自分で言うのもなんだか、真っ当な人間であるという自負があった。

 それは、このリヴェルト伯爵家において唯一の味方であったメイドのマリーサさんのお陰だ。
 彼女は、使用人という立場で最大限私のことを助けてくれていた。父も先代の代からいる彼女にだけは、あまり強気には出られていなかったような気がする。とにかく彼女は、私にとってとても心強い味方だったのだ。

 マリーサさんは、私に人としての正しい在り方を教えてくれた人でもある。
 彼女がいなければ、私もきっとリヴェルト伯爵家に染まっていただろう。人の道から外れた外道に落ちなくて良かったと、今は心からそう思っている。
 そこに落ちたら、きっと戻って来られなかっただろう。もしかしたらあの三人のように、誰かを不幸にして、それを嘲笑っていたかもしれない。

「長い間、お疲れ様でした……本当にありがとうございます。私は、あなたのお陰でここまでなれたのだと、そう思っています。これからどうしていけばいいのか、少し悩んではいます。でも私は前に進んで行きますから、どうか安心してください」

 私は、お墓の前でゆっくりと祈りを捧げていた。
 長年に渡って私を支えてくれたマリーサさんは、つい先日身罷られた。それは本当に突然の出来事で、まだ心が追いついていないくらいだ。
 亡くなる前日まで、彼女はメイドとして働いていた。そんな素振りなんて、見せていなかったというのに、マリーサさんの体はとうの昔に限界を迎えていたようだ。

 誇り高き彼女の献身に対して、私はまだちっとも恩返しできていない。
 だからせめて、彼女のように誇り高く前を向いて生きようと思っている。それが空から私のことを見守ってくれているマリーサさんが、望んでいることだろうから。

「下らない感傷に浸っているようですね、お姉様」
「……え?」

 そんな風に亡き彼女に思いを馳せていた私は、聞こえてくる声に耳を疑った。
 私はすぐさま、声が聞こえてきた方に視線を向ける。するとそこには、腹違いの妹プレリアと継母アドミラがいた。
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