「妹の君の方が魅力的だ」とあなたが今話しかけているのは姉の方です。

木山楽斗

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4.茫然としていると

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「……」

 私は色々なことを考えながら、ストラーク様が去って行った方向を見つめていた。
 今回のことをどう受け止めるべきか、それを考えていたのだ。いや、答えというものは既に出ているようなものではある。あのようなことをしたストラーク様と婚約し続けるなんて、無理な話だ。

「……浮かない顔をしているな?」
「え?」

 そんな風に私が立ち尽くしていると、話しかけてくる人がいた。
 声が聞こえてきた方向を見てみると、そこには一人の男性がいる。その人物のことは知っていた。彼はランダール公爵家のルヴェルス様だ。

「あ、その、ルヴェルス様ですよね。ご、ごきげんよう……」
「ああ……そういうあなたは、どちらで呼ぶのが正しいのかな?」
「え?」

 ルヴェルス様は、私の顔を見つめていた。
 その視線は、リボンの方へと向く。彼はそれを、訝し気な目で見つめていた。
 それに対して、私は動揺する。先程の質問とその視線から、彼が私の正体というものを見抜いているような気がしたからだ。

「少し失礼する」
「あっ……」

 ルヴェルス様は、私の傍に近寄ってきた。
 彼の顔は、私の耳元にある。それはつまり、内密な話がしたいということだろうか。
 しかしあまりに顔が近過ぎて、私は少し照れてしまった。今はそれ所ではないというのに。

「奇妙なものだ。俺はあなたのことを姉のイフェリアであると感じている。しかしこのリボンというものは、妹のエフェリアのものだ。さて、俺はどちらの情報を信じればいいのだろうか?」
「あの、私はその……」
「ふむ、事情があって妹の振りをしていると判断するべきだろうか?」
「……このことは内密にしていただけると助かります」

 ルヴェルス様は、私の状態というものを的確に見抜いてきた。
 その言葉によって、私は理解する。彼は私と妹を見分けられる稀有な人間の一人なのだと。
 となると、中々にまずい状況である。姉が妹に成り代わっているなんて問題だ。ルヴェルス様に、弱みを握られてしまったといえる。

「もちろん、あなたにはあなたの事情があるということは理解している。それをわざわざ公表することに意味があるとは思わない。利益も得られないからな。しかし、俺はそれを交渉の材料としよう。何があったか、話してもらえるか?」
「えっと、それは最早構いませんが、どうしてルヴェルス様が私のことを? それこそ、利益は得られないのではないですか?」
「単純な興味であるといえるだろうか。あなたに恩を売っておくということもある。俺は脅しよりも恩義の方が未来に繋がっていくと思っているからな」
「……そうですか。わかりました。お話しします」

 ルヴェルス様の言葉に、私は小さく頷いた。
 どの道、私に選択肢があるという訳でもない。弱みを握っている彼が話せと言っているのだから、ここは素直にストラーク様のことを話すとしよう。
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