「妹の君の方が魅力的だ」とあなたが今話しかけているのは姉の方です。

木山楽斗

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2.いるはずのない婚約者

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「あ、あの、私はこれで……」

 先程までは、意気揚々と世間話に花を咲かせていた令嬢は、焦った様子で私の元から離れて行った。
 気を遣ってくれたのか、はたまた面倒事に巻き込まれたくないと思ったのか、彼女がどう思ったのかは知らないが、少なくとも私と一緒にいようとは思わなかったらしい。
 そんな彼女に言葉を返すこともできず、私はストラーク様の方を見つめていた。すると彼の視線がこちらに向く。

「あっ……」

 何故ここに彼がいるのか、私はずっとそれを考えていた。
 ただ目が合ったことによって、別の懸念が生まれる。それは、私が妹のエフェリアではなく、イフェリアだとばれないかという心配だ。

 婚約者である彼ならば、私達の違いというものにも気付いていることだろう。もしも彼が何か事情があってここに来ているなら、非は私の方にあることになる。
 いや、事情を話せばストラーク様もわかってくれるはずだ。寛大な彼ならば、アガーティア伯爵家のことを考慮してくれるかもしれない。

「……ここにいましたか」

 私が少々楽観的ともいえる考え方をしていると、ストラーク様が傍まで近寄ってきていた。
 彼に声をかけられて、私の身は少し縮こまる。今この状況は、私にとってとても居心地が悪いものだった。

「エフェリア嬢、お久し振りですね」
「……え?」

 ストラーク様の口から妹の名前が聞こえてきたことに、私は思わず固まることになった。
 それが予想外のことであったからだ。ストラーク様は私のことを、イフェリアだと思っていない。彼がエフェリアの名前を口にしたことは、それを表している。

 正体がばれていないということは、今の私にとっては良いことだと言えなくはない。だが私は、単純に傷ついていた。
 婚約者が違いを認識していない。その事実を受け止めるまでには、それなりの時間を有した。
 彼は近くで、私のことを何度も見ていたというのに、まだエフェリアとの違いをわかっていないというのだろうか。

「ああ、驚きますよね。この舞踏会に僕がいるなんて、あなたはきっと思ってもいなかったことだ」
「そ、そうですね……」

 色々と動揺しながらも、私はストラーク様の言葉に応えた。
 それによって、私の考えはある程度元に立ち返る。そういえばそもそも、どうして彼がここにいるのだろうか。私が言えたことではないが、彼は婚約者がいる身であるというのに。
 いや、私と同じように誰かの付き添いで来たという可能性はある。彼にも妹がいるため、その保護者として来たということなら、この場にいるのも納得できない訳ではない。

「ただ、ここであなたと出会ったことは偶然などではありません。僕はあなたに会いに来たのですから」
「……え?」

 続くストラーク様の言葉に、私は再度固まることになった。
 どうやら彼は、妹の付き添いなどで来た訳ではないらしい。その口の端を釣り上げた笑みから、私はそれを悟るのだった。
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