わがままな妹の方が可愛いと婚約破棄したではありませんか。今更、復縁したいなど言わないでください。

１３

　私とイルファー様は、屋敷の廊下を歩いていた。
　話が終わって、彼が帰るので、送っているのだ。
　弟のことが聞けて、私は大変満足している。彼の道筋が知れたことは、私にとって大きな収穫だ。

「む？」
「え？」

　そんなことを思っていた私は、前方から走って来るとある人物に気づいた。
　その人物は、私がよく知っている男性だ。ただ、もう顔も見たくないと思っていた人物である。

「リルミア……ひ、久し振りだね」
「グランダ様……どうして、こちらに？」

　私の元婚約者であるグランダ様は、少し気まずそうにしながら話しかけてきた。
　その態度に、私は違和感を覚えていた。彼という人間は、もう少し尊大な態度をしていたはずである。少なくとも、このようなしおらしい態度をする人ではなかった。
　彼に、何かがあったのだ。それは、なんとなく予想できることである。

「実は、君に折り入って相談したいことがあるんだ」
「相談？」
「ああ、その……君の妹のことなんだけど」

　グランダ様の言葉で、私は自分の予想が当たっていたことを理解した。
　彼は、レルミアのことで私に話を聞きに来たのだろう。彼女のわがままは、度を越えている。それを可愛いと言っていたが、流石に我慢しきれなかったのだろう。
　こうなることは、わかっていたことである。遠くから見ている分にはいいのかもしれないが、実際に接してみるとレルミアは嫌な子だ。それを、彼もしっかりと実感しただろう。

「レルミアは、とてもわがままだね……僕が言うことを聞かないとすぐに拗ねるし、正直扱いにくいよ」
「そうですか……それで、何を言いたのでしょうか？」

　レルミアを批判する彼に対して、私は少し怒りを感じていた。
　彼は、自分のことを棚に上げている。私との婚約を破棄したのは、彼のわがままに他ならない。それを通したのに、妹を批判する権利が彼にあるのだろうか。
　一応、家族なので、レルミアを贔屓目に見ているのかもしれない。心情的に、婚約破棄を決断したことも、私の彼への怒りを加速させているのだろうか。
　最も、どちらもどちらではある。別に、レルミアが良い子だとはまったく思ってはいない。

「つまり、僕は今回の婚約について……気の迷いだと思っているんだ」
「気の迷い？」
「彼女の本質を見抜けず、君との婚約を破棄してしまったことが、僕にとって大いなる間違いだったということさ」

　彼の言葉から、反省の気持ちはまったく感じられなかった。
　間違えたと思っているが、反省はしていない。その浅はかな考えに、私は呆れてしまう。

「そこで、僕は君との婚約を再び結びたいと思っている。再婚約というのかな？」
「は？」

　さらなる言葉は、私の怒りを加速させた。
　本当に、この男はどこまで身勝手なのだろうか。