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 イルファー様との話の最中、部屋の奥から弟が現れた。
 失踪していたはずの弟が急に現れて、私は混乱している。
 だが、一つわかることがあった。イルファー様の賭けの相手が、弟であるということだ。
 もしかしたら、今回のこの騒動自体が、弟によって引き起こされたのかもしれない。
 そのような考えが過ったが、結局結論は出ないだろう。事情を知っている二人に、聞いてみるしかないのである。

「どうして、ルヴィドがここに……?」
「簡単な話だ。そこにいるルヴィドは、家を出た後、私が拾った。今は、私の直属の配下として、働いてもらっている。といっても、王国の兵ではないがな……」
「それは……」

 イルファー様の言葉に、私は驚いた。
 王子の直属の配下。しかも、王国の兵ではない。
 要するに、ルヴィドは彼の私兵ということである。家出した後、そのようなことをしていたとは、かなり衝撃的なことだ。
 だが、同時に、どうして見つからなかったかも理解できた。王子の私兵として動いている彼を、普通の方法で見つけ出せるはずはない。

「今回の件にも、彼が絡んでいるのでしょうか?」
「その通りだ。ルヴィドの働きは、目に見張るものがあった。故に、何か褒美を取らせてやることにした。そこで、そいつが提案してきたのがお前と婚約することだったという訳だ」
「私と王子を婚約させる……?」

 やはり、今回の件もルヴィドから持ち掛けたようだ。
 しかし、その提案はあまり理解できないものである。
 どうして、私を王子を婚約させようという結論に達したのだろうか。それに乗ったイルファー様も中々だが、まずルヴィドに聞きたいものである。

「ルヴィド、あなたは一体何を考えていたの?」
「フォルフィス家を出て行った僕が、せめてできることだと思ったんだ。王子との婚約は、フォルフィス家の利益になるだろう?」
「それは、そうだけど……それなら、戻ってくればいいのに」

 ルヴィドは、未だにフォルフィス家の人間として役に立とうとしていた。
 その気持ちは、嬉しいものである。
 だが、その気持ちが残っているなら、家に帰って来て欲しい。そうすることが、フォルフィス家にとって、一番役に立つことである。

「僕は、家に戻るつもりはない。というよりも、もう戻れるような立場ではないんだ」
「どういうこと?」
「イルファー様の私兵として、僕は人に言えないようなことをやってきた。そんな僕は、フォルフィス家に戻れない。もう生きていく世界が違うんだよ」
「生きていく世界が……違う? そんな……」

 私の知らない内に、ルヴィドは違う世界の人間になっていた。
 これまで、この弟は何をしてきたのだろうか。それは、こちらの世界に戻れない程、ひどいことだったのだろうか。
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