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 私は、ドルビン様に婚約破棄を叩きつけていた。
 浮気をした彼は、私の言葉に反論することはできない。甘んじて受け入れるしかないだろう。
 自分側に非があって婚約破棄されることは、貴族にとってかなりの痛手である。悪評が流れかねないからだ。

 もちろん、私にも多少は傷がつくだろう。噂というものは尾ひれがついて、広まっていくからだ。
 それでも、彼に比べれば些細なことだ。浮気したという事実を背負い続けて生きていくことは、それなりに厳しいことだろう。

「くそっ……」
(この女……)
「ドルビン様、大丈夫ですか?」
(ふふっ……これで、彼は私のもの。目の前の彼女には感謝しなければならないわね。邪魔だと思っていたけど、本当にありがたいことだわ)

 苦しそうな表情をするドルビン様に、エンリアはとても嬉しそうにしていた。
 彼女からすれば、ドルビン様と結ばれればそれでいいのだろう。悪評があるとはいえ、侯爵家の人間と結ばれるのだ。子爵家の彼女にとって、それはとても嬉しいことだろう。
 いや、利益だけではない。彼女は、本当に彼を愛している。あの男に惹かれるなど正気とは思えないが、個人の趣向なので何も言う必要はないだろう。

「エンリア……大丈夫だ」
(せめて、彼女と結ばれることだけが幸福か。あの女狐ではなく、純真な彼女と結ばれるのだ。悪評が流れて、苦しいことになっても、なんとかなるか……)
「ドルビン様……」
(本当に幸運ね……こんなにも嬉しいことは、他にないわ)

 ドルビン様は、エンリアを純真な女性だと思っているらしい。
 心の声を聞いている限りは、まったくそう思わないので、彼女はとても演技が上手いのだろう。
 思っていたよりも、ドルビン様の目は節穴であったようだ。私と同じ匂いがする彼女を見抜けないとは、少し意外である。
 だが、よく考えてみれば、私は彼の黒い心の声を聞いていたため、あまり態度が良くなかったのかもしれない。もちろん表面上は取り繕っていたが、わかりやすいものだったのではないだろうか。

「とりあえず……これで、終わりだな」
(結局、俺は何もできなかったな……)
「ええ、終わったわね」

 ロウィードは、自分が何もできなかったと悔やんでいた。
 だが、彼はここにいるだけでいいのだ。それだけで、私の力になるのだから、大いに貢献してくれたといえる。
 とにかく、これでドルビン様との話は終わりだ。彼が、これからどうなるかなど、正直興味はあまりない。信用を失った代わりに、愛する人と結ばれた。それが幸せかどうかはわからないが、それは本人達の問題なので考える必要もないだろう。
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