私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗

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15.辺境伯の息子

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「……父上の代わりなんて、気は進まないが、仕方ないことなのだろうな」

 私は、馬車で対面して座っている男性の顔を見た。
 その男性は、グライム辺境伯とよく似ている。それは当然のことだ。彼は辺境伯のご子息なのだから。

 グライム辺境伯の次男であるギーゼル様は、今回の件に乗り気という訳でもないようだ。
 彼にはブレットンさんとの交流はそれ程ないだろうし、それは当然のことだといえる。しかしながら、グライム辺境伯が自ら出向くという訳にもいかないらしく、彼に白羽の矢が立ったのだ。

「ご迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」
「いや、あなたが謝る必要があることではないさ。もっとも、俺はヴォルバルト氏――ブレットンだったか? いや、どちらにしてもその人に関する認識というものが薄い。父上の友人と言われても、そんなに肩入れできる訳ではないというのが正直な所だ」

 ギーゼル様は、ブレットンさんが私のお父様を手にかけた、という事実に関して、色々と思う所があるらしい。
 それも当然のことなので、私は返答に詰まってしまった。言い返す言葉もない。それでも、私にとって大切な人であるということは変わらないのだが。

「……気を悪くさせてしまったなら、申し訳ない」
「え?」
「ただ、俺の考えというものはきちんと伝えておかなければならないと思っている。これからしばらくの間、一緒に行動する訳だしな。認識の齟齬があってはならないと思っている」

 黙った私に対して、ギーゼル様は予想していなかったことを言ってきた。
 その言葉によって、私は理解する。彼は正直者なのだ。体裁ばかり気にする貴族としては珍しいことだが、真っ直ぐな人なのかもしれない。

「俺個人としては、ブレットン氏のことを擁護しようとは思っていない。同情の余地はあると思っているが、それだけだ。この国の法から考えると、彼はあくまでも殺人者ということになる。俺はまだそれを受け入れられる器じゃない。少なくとも今は、肩入れできない」
「……」
「しかしだ、父上の代理としてここに立っている以上、父上の気持ちに従うつもりだ。単純な話ではあるが、その方が俺も動きやすいしな。今回の件で、うだうだと考えるつもりはない。それは無駄なことだからだ」
「……ふふっ」
「え? なんで笑うんだ?」

 ギーゼル様の言葉に、私は思わず笑ってしまった。
 彼という人間がどこまでも真っ直ぐであるということが、よくわかったからだ。
 しかしそういう風に割り切ってもらえているのは、ありがたい限りである。これで私も心おきなく、行動することができそうだ。
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