18 / 18
18.和やかな時間
しおりを挟む
「こうして君と過ごせる時間を、幸福であると思っている」
私とアルフェルグ様は、二人きりで寝室にいた。
彼と寝床をともにするようになってからは、しばらく経つ。
その時間は、幸福な時間であった。その認識は、アルフェルグ様も同じだったようだ。
「ええ、そうですね」
「不思議なものだ。俺は今まで、家族というものを忌避していたというのに、今は君に気持ちが傾き過ぎているような気がする」
「それは……抑圧していたからこそ、そうなのではありませんか。心のそこでは、アルフェルグ様も家族を求めていたのでしょう」
アルフェルグ様の言葉は、日に日に大胆になっている。
思っていた以上に、彼は情熱的だ。その情熱は恐らく、長年積もりに積もった家族愛というものが、溢れ出しているということだろう。
それを一身に受け止めるというのは喜ばしいことではあるが、同時に困ることでもあった。愛情が深すぎて、蕩けてしまいそうになるのだ。
「考えてみれば、そうなのかもしれないな。俺はやっと、家族になりたいと思える人に巡り会えたということか。気付くのは随分と遅かった訳だが」
「そう思えてもらえていたというのは、嬉しい事実ですね。別に私は、何かをしたという訳でもないような気はしますけれど」
「君は優しく、温かい人だ。素敵な女性であると思っている。それは最初に会ったときから、変わらない気持ちだ。正直、俺にはもったいない婚約者だと思っていた」
「アルフェルグ様だって、優しくて温かい人だと思いますよ。温かさが表面に出てきたのは最近ですが、あなたはただの冷たい人ではなかった」
アルフェルグ様は、とても苦しい境遇にあった。
それによって、その温かさを抑えつけざるを得なかったのだろう。
それは仕方ないことだと、私は思っていた。でも、今の方がずっといいのだから、踏み込もうとしなかった私の判断は、誤りだったのだろう。
「君の友人には、感謝しなければならないな。きっかけを作ってくれた」
「それを言うなら、サラティナや使用人達にも感謝しましょう。ずっと応援してくれていたみたいですから」
「そうだな。俺達以上に、俺達のことをわかっていてくれた。良き者達に囲まれたものだ」
「ええ、本当に……」
そこでアルフェルグ様は、私の頬に手を当ててきた。
そのまま私達は、ゆっくりと口づけを交わす。ゆっくりとした時間が、流れていく。
「改めて言っておこう。俺の妻は、自慢の妻だと。しかし、困ったな。自慢過ぎて、宝箱にでも入れておきたくなる」
「それでは困ってしまいます。私はあくまで、アルフェルグ様を支えたいのですから」
私達とアルフェルグ様は、そんな下らない会話をしながら笑い合っていた。
こうやって、これからも二人で同じ時間を過ごしていくのだろう。そんな未来を想像しながら、私は幸福に包まれていくのだった。
私とアルフェルグ様は、二人きりで寝室にいた。
彼と寝床をともにするようになってからは、しばらく経つ。
その時間は、幸福な時間であった。その認識は、アルフェルグ様も同じだったようだ。
「ええ、そうですね」
「不思議なものだ。俺は今まで、家族というものを忌避していたというのに、今は君に気持ちが傾き過ぎているような気がする」
「それは……抑圧していたからこそ、そうなのではありませんか。心のそこでは、アルフェルグ様も家族を求めていたのでしょう」
アルフェルグ様の言葉は、日に日に大胆になっている。
思っていた以上に、彼は情熱的だ。その情熱は恐らく、長年積もりに積もった家族愛というものが、溢れ出しているということだろう。
それを一身に受け止めるというのは喜ばしいことではあるが、同時に困ることでもあった。愛情が深すぎて、蕩けてしまいそうになるのだ。
「考えてみれば、そうなのかもしれないな。俺はやっと、家族になりたいと思える人に巡り会えたということか。気付くのは随分と遅かった訳だが」
「そう思えてもらえていたというのは、嬉しい事実ですね。別に私は、何かをしたという訳でもないような気はしますけれど」
「君は優しく、温かい人だ。素敵な女性であると思っている。それは最初に会ったときから、変わらない気持ちだ。正直、俺にはもったいない婚約者だと思っていた」
「アルフェルグ様だって、優しくて温かい人だと思いますよ。温かさが表面に出てきたのは最近ですが、あなたはただの冷たい人ではなかった」
アルフェルグ様は、とても苦しい境遇にあった。
それによって、その温かさを抑えつけざるを得なかったのだろう。
それは仕方ないことだと、私は思っていた。でも、今の方がずっといいのだから、踏み込もうとしなかった私の判断は、誤りだったのだろう。
「君の友人には、感謝しなければならないな。きっかけを作ってくれた」
「それを言うなら、サラティナや使用人達にも感謝しましょう。ずっと応援してくれていたみたいですから」
「そうだな。俺達以上に、俺達のことをわかっていてくれた。良き者達に囲まれたものだ」
「ええ、本当に……」
そこでアルフェルグ様は、私の頬に手を当ててきた。
そのまま私達は、ゆっくりと口づけを交わす。ゆっくりとした時間が、流れていく。
「改めて言っておこう。俺の妻は、自慢の妻だと。しかし、困ったな。自慢過ぎて、宝箱にでも入れておきたくなる」
「それでは困ってしまいます。私はあくまで、アルフェルグ様を支えたいのですから」
私達とアルフェルグ様は、そんな下らない会話をしながら笑い合っていた。
こうやって、これからも二人で同じ時間を過ごしていくのだろう。そんな未来を想像しながら、私は幸福に包まれていくのだった。
60
お気に入りに追加
524
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい
風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」
顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。
裏表のあるの妹のお世話はもううんざり!
側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ!
そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて――
それって側妃がやることじゃないでしょう!?
※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
初夜をボイコットされたお飾り妻は離婚後に正統派王子に溺愛される
きのと
恋愛
「お前を抱く気がしないだけだ」――初夜、新妻のアビゲイルにそう言い放ち、愛人のもとに出かけた夫ローマン。
それが虚しい結婚生活の始まりだった。借金返済のための政略結婚とはいえ、仲の良い夫婦になりたいと願っていたアビゲイルの思いは打ち砕かれる。
しかし、日々の孤独を紛らわすために再開したアクセサリー作りでジュエリーデザイナーとしての才能を開花させることに。粗暴な夫との離婚、そして第二王子エリオットと運命の出会いをするが……?
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
全体的に皆が善人で温かく、心がほっこりしました。
面白かったです!
感想ありがとうございます。
ほのぼのとした作品を目指したので、そう言っていただけて良かったです。
この作品で楽しんでいただけたなら嬉しいです。