妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。

木山楽斗

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16.和やかながらも

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 私は、ノルード様とサルマンデ侯爵夫人の様子に少し動揺していた。
 二人は、笑みを浮かべている。親子だけあって、よく似た笑みだ。
 しかし部外者である私は、その笑みの意味がよくわからない。二人はどうして、そんなに楽しそうな笑みを浮かべているのだろうか。

「母上が以前から反対していたことは薄々わかっていました。騎士の仕事は、危険だと思われているのでしょう?」
「いいえ、騎士の仕事は危険です。それは紛れもない事実です」
「しかし、母上の言い分では私は現場には行かないのでは? 要職に就くということであれば、危険はないのではありませんか?」
「あなたは、危険に突っ込んで行きそうで怖いのです」

 サルマンデ侯爵夫人は、先程までと比べるととてもリラックスしていた。
 どうやら先程までの態度は、ノルード様を欺くためのものだったようだ。どちらかというと、こちらの方が彼女の素なのかもしれない。

「そのようなことをするつもりはありません……と言うことができないのは確かですね」
「やっぱり……」
「だから色々と理由を作って、私が騎士になることを阻止しようとしているということですか」
「別に間違ったことは言っていません」
「私が困難に打ち勝つと言ったらどうします。優遇があっても、それでも騎士になりたいと」
「そのような頑固なことは言わないでもらいたいものです」

 サルマンデ侯爵夫人は、心配性であるようだ。
 騎士の仕事というものは、時には危険を伴う。命を失うこともあると聞いている。
 とはいえ、それは極端な例だといえるだろう。騎士とて命まで失うのは稀だ。そう頻繁に聞くようなことではない。

「大体、貴族として生きるとしても危険はつきものではありませんか? 暗殺などもありますし、常に命の危機に晒されているともいえる」
「それは極端なものの捉え方です」
「母上こそ、極端に考えているのではありませんか? 騎士という仕事に偏見を持っている」
「偏見など持ってはいません。私は長年の経験から述べているのです」

 ノルード様とサルマンデ侯爵夫人は、口論をしていた。
 しかし、雰囲気が悪いという訳ではない。二人とも、親子の戯れのような口調だ。
 それは、私がいることも関係しているかもしれない。客人の前で言い争わないくらいには、冷静であるということだろう。

「母上はご自分のことを時折棚に上げますね……まあただ、母上が私を止めるための理由が、気になったことは確かです」
「それは……」
「母上の案に従っても良いとは思っています。ただ、それは私個人の問題ではありません」

 そこでノルード様は、私の方に目を向けた。
 その視線の意図は、理解できる。私がこの婚約について、どう思っているかを聞きたいということだろう。
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