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7.当然の怒り

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「婚約破棄など、凡そ許せることではない」

 イルルグ様の婚約破棄に対して、お父様はひどく憤りを感じているようだった。
 いや、お父様だけではない。隣にいるお母様もルナーシャも、怒ったような顔をしている。
 それは当然といえば当然のことではあるだろう。イルルグ様もウルーナ嬢も、リヴァーテ伯爵家を侮辱したようなものなのだから。

「そもそもの話、妹が嫌がったから婚約破棄など聞いたことがない。一体エーヴァン伯爵家はどういう教育をしているのだ」
「お父様、どうか落ち着いてください。今回の件に関しては、とにかくエーヴァン伯爵家に抗議するとしましょう」
「ラナーシャ……そうだな。私としたことが取り乱してしまった」

 私の言葉で、お父様の怒りは少しだけ収まったようだった。
 ここまで怒っているお父様を見るのは、一体いつ振りのことだろうか。どうやら今回の件は、相当頭にきているらしい。
 しかしだからこそ、行動は冷静にしなければならないだろう。怒りに身を任せたりせず、論理的に抗議する。今はそれが必要だ。

「今回の件は、当然のことながらイルルグの独断ということになるのだろう。エーヴァン伯爵が冷静な男であるならば、この件は示談に持ち込むはずだ」
「まあ、それはそうでしょうね。ある程度の利益は得られそうですか……」
「もちろん、むしり取れるものはむしり取るつもりだ」
「ええ、是非ともそうしましょう」

 お父様程我を忘れている訳ではないが、私も当然怒ってはいる。
 イルルグ様もウルーナ嬢も、お互いの大切なことは理解できた。だが、それは別に他者を侮辱して良い理由にはならないだろう。

 他者を排除して二人だけの世界で生きようとする。そんな生き方にはきっと限界が来るだろうに、あの二人はどうしてあんな風なのだろうか。
 とはいえ、それは私には最早関係がないことではある。あの二人がどうなろうと、知ったことではない。むしろ、その身勝手の報いを受けて欲しいものである。

「さてと、エーヴァン伯爵家のことは置いておいて、お前の婚約については色々と考えなければならないな」
「そうですよね……婚約破棄されたという事実は不利に働くでしょうか?」
「いや、お前の場合はそうでもないだろう。リヴァーテ伯爵家の時期当主は魅力的だ。婚約破棄されたというだけで、求婚が落ち着くことはないだろう」
「そうですか。それなら安心ですかね?」

 私の婚約については、特に問題はないようだ。
 リヴァーテ伯爵家を存続させるにあたって、それは重要なことだったので安心する。
 とはいえ、いざとなったらルナーシャとダナートに任せるという手もある訳だし、そこまで重く考えなくても良いのだろうか。今回のことで、私は少しだけ気楽になっていた。それは不幸中の幸いといえるだろうか。
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