継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

５４．非道なる存在

　私は、ラフードとクーリアとともに部屋に戻って来ていた。
　フレイグ様は、旅の支度を始めている。いや、戦の支度というべきかもしれない。

「はあ……」
『お嬢ちゃん、どうかしたのか？　なんて聞く必要はないよな』
「うん、これからのことを考えてしまってね……」
『まあ、そうだよな……』
『ええ、仕方ないことです』

　私は、これから起こることに対してため息を吐いていた。
　フレイグ様は魔界に行き、ラムフェグと戦う。それが私は心配で仕方ないのである。

『だが、お嬢ちゃん、そんなに心配する必要はないんだぜ。フレイグは強い。ラムフェグなんかに、負けやしないさ』
『しかし、油断することはできません。相手はあのラムフェグですから、どのような策略を用意しているか……』
『おい、俺がせっかくお嬢ちゃんを安心させようとしているのに、お前は何を言っているんだ』
『え？　そういうことだったのですか？』

　そんな私の前で、二人はそのようなやり取りを交わした。
　そのやり取りに、私は思わず笑ってしまう。なんだか、おかしかったのである。

『はあ、まあ、お前は昔からそういう奴だったよな……』
『うっ……それは、自覚していますが』

　どうやら、クーリアは昔からそういう感じだったようだ。
　それは、なんとなく理解できる。彼女は、とても真面目だが、少し抜けている所があるような気がしていたのだ。

『……まあ、実際の所、クーリアの言う通り、何が起こるかは正直わからないんだ。ラムフェグは、恐ろしい奴だ。色々と策略を張り巡らせているだろう』
「……そうなんだね」
『彼の策略で、私や他の兄弟は、こんな姿になりましたからね……』
『ああ、魔族側についた兄弟も、あいつに嵌められたからな……』
「え？」

　ラフードとクーリアの発言に、私は驚いてしまった。
　クーリアがラムフェグに倒されたというのは、ある程度予想していたことである。他の同胞もそうなったことも同じだ。
　ただ、魔族側の兄弟までラムフェグの手にかけられていたとは思っていなかった。やはり、評判通り、彼は恐ろしい存在であるようだ。

『そういえば、ウェリッジとかはどうしているんだ？』
『実は、その辺りのことはよくわからないんです。まあ、彼に関しては、ラムフェグに加担することはないと言っていましたが……』
『まあ、それはそうだろう。あいつのせいで、倒されたんだから、それは当たり前だ』
『ええ……』

　ラムフェグは、自身の目的のために仲間すら犠牲にするようである。
　それは、彼の非道さを表しているといえるだろう。
　そんな存在とフレイグ様は戦う。それを理解して、私は益々心配になるのだった。