継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

４３．不穏なる報告

『あいつが……ラムフェグが現れたのか？』
『ええ、どうやら彼も生きていたようです』
『あの野郎……俺がぶっ飛ばしてやったというのに……』

　ラフードは、クーリアの報告に表情を歪めていた。
　どうやら、ラムフェグという魔族は、彼にとってかなり因縁深い相手のようだ。
　口振りからしてそのラムフェグという魔族は、クーリアともう一人が倒された後、ラフードが倒したのだろう。

『よくわかりませんが、彼は再び肉体を得ているようです。彼のことですから、もう一度魔族と人間の戦いを起こそうとしているのかもしれません』
『ああ、あいつならやりそうだな……いや、間違いなくそうするか』

　ラフードは、苦い顔をしていた。それは、そうだろう。二つの種族の争いが再び起こる。それは、とんでもないことだ。
　せっかく、戦いが終わったのに、また戦いが起こってしまえば、多くの血が流れることになる。そんなことは、許されることではないのだ。

『まだ表立って動いていませんが、彼が動き出すのも時間の問題でしょう。その前に、なんとかしなければなりません』
『ああ、それはそうだが……この姿で、どうすればいいんだ？　くそっ、なんでよりにもよって、あいつが肉体を得るんだよ』
『ラフード、確かに私も彼のことを知った時は焦りました。しかし、今は希望があります』
『希望……？』

　そこで、クーリアは私の方を見てきた。それに合わせて、ラフードもこちらを見てくる。
　そこで、私は気付いた。二人は、普通は世界に干渉できない。だが、私はそんな二人とやり取りができているのだ。

「で、でも、私は戦う力なんて、持っていないよ」
『ええ、それはわかっています。あなたには、この事実を伝えてもらいたいのです』
「伝える？」

　クーリアの言葉に、私とラフードは顔を見合わせた。
　彼女の差している彼、それは恐らくフレイグ様のことだろう。クーリアは、彼に頼ろうとしているようだ。
　しかし、それには少しだけ困ったことがある。私から、フレイグ様に事情を伝えるということは、ラフードのことも話さなければならないからだ。

『ラフード、あなたが彼が自ら立ち直るのを待っているということは知っています。ですが、今はそんなことを言っている場合ではありません』
『……ああ、確かにそうだな。あいつが現れたというのは、放っておけることではない。必ず止めなければならないことだ』
「ラフード……」

　ラフードは、少し考えた後そのように言った。どうやら、彼は覚悟を決めたようである。
　それだけ、ラムフェグが脅威であるということなのだろう。その表情から、それは伝わってくる。

『お嬢ちゃん、頼んだぜ。あいつに、ラムフェグのことを伝えてくれ。あいつなら、きっとなんとかしてくれる』
「……わかった」

　ラフードの言葉に、私はゆっくりと頷いた。
　彼が覚悟を決めたのだ。それなら、私があれこれ言う必要はないだろう。
　こうして、私はフレイグ様の元に向かうのだった。