21 / 73
21.特別な魔族
しおりを挟む
「そこで出会ったのが、こいつだった。狼のような姿をしたあいつは、魔族の陣営からこちらにやって来たんだ」
「魔族の陣営からやって来た? それは、どういうことなんですか?」
「人間と魔族の戦いの発端を知っているか?」
「えっと……魔族が、人間を支配するために攻めて来たという感じだったと記憶しています」
「魔族の中にも、色々な奴がいる。あいつは、そんな魔族の侵攻に嫌気が差して、人間に寝返ろうとしていたんだ」
フレイグ様は、懐かしそうにそう語ってくれた。
二人がどうして友達になったのか。それは、ずっと気になっていたことだった。
なぜなら、二つの種族は争っていたからだ。本来ならば、人間と魔族が交わるなんてないのである。
「だが、俺はあいつをすぐには信じられなかった。魔族の陣営から来たスパイという可能性もあったからだ」
「それは……そうですよね」
「あいつと面と向かって会話をして、その気持ちはさらに高まった。あいつは、自分のことを魔族の王子だと名乗ったんだ」
「え?」
フレイグ様の言葉に、私はとても驚いた。
ラフードが魔族の王子である。それがもし本当なら、とても重大な事実だ。
そんな私の様子に、フレイグ様は少しだけ笑った。その表情も、私を驚かせるものである。
「諸々の話を合わせて、俺はあいつを信じられなかった。むしろ、怪しいとさえ思った。だから、俺はあいつを牢屋に入れたんだ」
「……そうですよね、多分、誰でもそうすると思います」
「ああ、あいつはそれに対して不満は述べつつも従った。その時点で、本当に敵意はないと気づくべきだったのかもしれないな」
フレイグ様は、お墓の方を見つめていた。それはきっと、後悔の気持ちがあるからなのだろう。
しかし、それは仕方ないことのように思える。いきなり現れた魔族が、王子と名乗って投降してきて、すぐに納得できるはずはない。
「それから、俺はこいつと何度か面会するようになっていた。それは、念のための措置だった。本当に投降してきた可能性も考慮して、色々と話を聞いていたんだ」
「そうなんですか……」
フレイグ様の言葉に、私は改めて彼が優しい人だと理解した。
怪しくても、それでも本当の可能性を捨てない。それは、彼の根底に他人を信じる気持ちがあるからだろう。
もしも私が同じ立場だった時、ラフードを信じられるかどうかは怪しい所だ。彼の言っていることなんて嘘。そう思って、話も聞かなかったかもしれない。
「魔族の陣営からやって来た? それは、どういうことなんですか?」
「人間と魔族の戦いの発端を知っているか?」
「えっと……魔族が、人間を支配するために攻めて来たという感じだったと記憶しています」
「魔族の中にも、色々な奴がいる。あいつは、そんな魔族の侵攻に嫌気が差して、人間に寝返ろうとしていたんだ」
フレイグ様は、懐かしそうにそう語ってくれた。
二人がどうして友達になったのか。それは、ずっと気になっていたことだった。
なぜなら、二つの種族は争っていたからだ。本来ならば、人間と魔族が交わるなんてないのである。
「だが、俺はあいつをすぐには信じられなかった。魔族の陣営から来たスパイという可能性もあったからだ」
「それは……そうですよね」
「あいつと面と向かって会話をして、その気持ちはさらに高まった。あいつは、自分のことを魔族の王子だと名乗ったんだ」
「え?」
フレイグ様の言葉に、私はとても驚いた。
ラフードが魔族の王子である。それがもし本当なら、とても重大な事実だ。
そんな私の様子に、フレイグ様は少しだけ笑った。その表情も、私を驚かせるものである。
「諸々の話を合わせて、俺はあいつを信じられなかった。むしろ、怪しいとさえ思った。だから、俺はあいつを牢屋に入れたんだ」
「……そうですよね、多分、誰でもそうすると思います」
「ああ、あいつはそれに対して不満は述べつつも従った。その時点で、本当に敵意はないと気づくべきだったのかもしれないな」
フレイグ様は、お墓の方を見つめていた。それはきっと、後悔の気持ちがあるからなのだろう。
しかし、それは仕方ないことのように思える。いきなり現れた魔族が、王子と名乗って投降してきて、すぐに納得できるはずはない。
「それから、俺はこいつと何度か面会するようになっていた。それは、念のための措置だった。本当に投降してきた可能性も考慮して、色々と話を聞いていたんだ」
「そうなんですか……」
フレイグ様の言葉に、私は改めて彼が優しい人だと理解した。
怪しくても、それでも本当の可能性を捨てない。それは、彼の根底に他人を信じる気持ちがあるからだろう。
もしも私が同じ立場だった時、ラフードを信じられるかどうかは怪しい所だ。彼の言っていることなんて嘘。そう思って、話も聞かなかったかもしれない。
1
お気に入りに追加
1,244
あなたにおすすめの小説
妹ばかり可愛がられた伯爵令嬢、妹の身代わりにされ残虐非道な冷血公爵の嫁となる
村咲
恋愛
【2021.2.26 書籍1~2巻発売中です!】
両親は病弱な妹ばかり可愛がり、姉である私のことは見向きもしない。
挙句、異形の魔族の血を引く冷血公爵へ、妹の身代わりとして嫁がされることに。
でも大丈夫!
私も妹が可愛いので!
それにこの人、そんなに冷血でもないみたいですよ。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。
全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。
言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。
食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。
アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。
その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。
幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…
運命の番なのに、炎帝陛下に全力で避けられています
四馬㋟
恋愛
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……
教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。
そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。
そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。
「エレノア殿、迎えに来ました」
「はあ?」
それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。
果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?!
これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる