9 / 73
9.沈黙する馬車
しおりを挟む
私は、宿屋で一晩を明かしてから、メーカム辺境伯の屋敷に向かうことになった。
昨日の内に手配していたらしく、宿の前には馬車が来ていた。そんな馬車に、私はフレイグ様と、そしてその隣に漂っているラフードとともに乗ったのである。
「……どうかしたのか?」
「あ、いえ、なんでもありません」
馬車の中で、ついラフードの方に目を向けてしまい、フレイグ様に訝し気な目で見られてしまった。
そちらに意識を向けるべきではないことはわかっている。ただ、頭上に狼の精霊が漂っている様はなんとも奇妙なもので、ついついそちらを見てしまうのである。
「……」
「……」
『……こいつ、相変わらず喋らないな』
馬車が動き出してから、私達の間には沈黙が流れていた。
昨日からわかっていたことだが、フレイグ様はそこまで積極的に喋る方ではない。だから、こちらから話しかけるべきなのだろう。
だが、私も別にそんなに積極的に話すタイプではない。こういう時にどう切り出せばいいのかは、今日もまったくわからないのだ。
「……昨日は、眠れたか?」
「あ、はい。おかげさまで、ぐっすりと眠れました」
「そうか。それなら良かった」
沈黙が続いていると、フレイグ様はそのような質問をしてきた。
多分、彼は私のことを心配してくれているのだろう。それは、その質問からなんとなく伝わってくる。
ただ、その質問から会話が広がることはなかった。恐らく、フレイグ様は必要最低限の会話しかしないつもりなのだろう。
『もっと言うことあるだろうが』
「……」
『外の景色を眺めてないで、もっとお嬢ちゃんに話しかけろよ。お前の婚約者なんだぞ? もっと交流した方がいいって』
そんなフレイグ様の横では、ラフードが色々と言っている。
狼の姿をした精霊は、私の方をまったく見ていない。恐らく、目の前に私がいてその言葉を聞いているという意識は、それ程ないのだろう。
多分、ラフードはいつもこんな感じなのだ。こうやって、聞こえなくてもエールを送るのが、彼なのだろう。
「えっと……フレイグ様も、よく眠れましたか?」
「……ああ」
「そうですか。それは何よりですね」
とりあえず、私はフレイグ様に同じ質問を返してみた。
ただ、これは多分そんなにいい質問ではなかった気がする。なぜなら、そこから話がまったく広がらなかったからだ。
『まあ、確かにそれなりに眠れてはいたが……だけど、もっと言うべきこととか、ないのか?』
ラフードは、またフレイグ様にそんなことを言っていた。
ちなみに、話が終わってから、彼はフレイグ様の部屋に行った。そちらで一晩を明かしたので、よく眠れていたかどうかはわかっているのだろう。
昨日の内に手配していたらしく、宿の前には馬車が来ていた。そんな馬車に、私はフレイグ様と、そしてその隣に漂っているラフードとともに乗ったのである。
「……どうかしたのか?」
「あ、いえ、なんでもありません」
馬車の中で、ついラフードの方に目を向けてしまい、フレイグ様に訝し気な目で見られてしまった。
そちらに意識を向けるべきではないことはわかっている。ただ、頭上に狼の精霊が漂っている様はなんとも奇妙なもので、ついついそちらを見てしまうのである。
「……」
「……」
『……こいつ、相変わらず喋らないな』
馬車が動き出してから、私達の間には沈黙が流れていた。
昨日からわかっていたことだが、フレイグ様はそこまで積極的に喋る方ではない。だから、こちらから話しかけるべきなのだろう。
だが、私も別にそんなに積極的に話すタイプではない。こういう時にどう切り出せばいいのかは、今日もまったくわからないのだ。
「……昨日は、眠れたか?」
「あ、はい。おかげさまで、ぐっすりと眠れました」
「そうか。それなら良かった」
沈黙が続いていると、フレイグ様はそのような質問をしてきた。
多分、彼は私のことを心配してくれているのだろう。それは、その質問からなんとなく伝わってくる。
ただ、その質問から会話が広がることはなかった。恐らく、フレイグ様は必要最低限の会話しかしないつもりなのだろう。
『もっと言うことあるだろうが』
「……」
『外の景色を眺めてないで、もっとお嬢ちゃんに話しかけろよ。お前の婚約者なんだぞ? もっと交流した方がいいって』
そんなフレイグ様の横では、ラフードが色々と言っている。
狼の姿をした精霊は、私の方をまったく見ていない。恐らく、目の前に私がいてその言葉を聞いているという意識は、それ程ないのだろう。
多分、ラフードはいつもこんな感じなのだ。こうやって、聞こえなくてもエールを送るのが、彼なのだろう。
「えっと……フレイグ様も、よく眠れましたか?」
「……ああ」
「そうですか。それは何よりですね」
とりあえず、私はフレイグ様に同じ質問を返してみた。
ただ、これは多分そんなにいい質問ではなかった気がする。なぜなら、そこから話がまったく広がらなかったからだ。
『まあ、確かにそれなりに眠れてはいたが……だけど、もっと言うべきこととか、ないのか?』
ラフードは、またフレイグ様にそんなことを言っていた。
ちなみに、話が終わってから、彼はフレイグ様の部屋に行った。そちらで一晩を明かしたので、よく眠れていたかどうかはわかっているのだろう。
3
お気に入りに追加
1,248
あなたにおすすめの小説
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです
風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。
婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。
そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!?
え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!?
※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。
※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
仕事ができないと王宮を追放されましたが、実は豊穣の加護で王国の財政を回していた私。王国の破滅が残念でなりません
新野乃花(大舟)
恋愛
ミリアは王国の財政を一任されていたものの、国王の無茶な要求を叶えられないことを理由に無能の烙印を押され、挙句王宮を追放されてしまう。…しかし、彼女は豊穣の加護を有しており、その力でかろうじて王国は財政的破綻を免れていた。…しかし彼女が王宮を去った今、ついに王国崩壊の時が着々と訪れつつあった…。
※カクヨムにも投稿しています!
※アルファポリスには以前、短いSSとして投稿していたものです!
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。
ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。
ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。
保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。
周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。
そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。
そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。
辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜
津ヶ谷
恋愛
ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。
次期公爵との婚約も決まっていた。
しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。
次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。
そう、妹に婚約者を奪われたのである。
そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。
そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。
次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。
これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる