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1.冷遇されている令嬢

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 マルネイド侯爵家における私の立場というものは、最悪といっても差し支えのないものだった。
 実の母が亡くなってから、私は継母やその連れ子、さらには新しくできた妹にまで疎まれていた。彼女達は、私を家族の一員だと認めず虐めてきたのである。
 お父様は、そんな私のことを見てみぬ振りをしていた。彼にとって、母は政略結婚の相手でしかなく、そんな母との間にできた私にも興味がなかったのだ。

「あなたには、メーカム辺境伯の元に嫁いでもらうわ」

 ある時、私は継母からそんなことを言い渡された。
 貴族として、政略結婚するのは当然のことだ。そのため、それ自体に対してどうこうというつもりはない。むしろ、この侯爵家から出て行けるのが、嬉しいくらいだ。
 だが、私は気になっていた。継母の表情が私を虐めて楽しんでいる時のように歪んでいるからだ。


「あら? 知らないのかしら? メーカム辺境伯がどういう人なのかということを……」
「……どういうことですか?」
「彼はね、冷酷無慈悲な辺境伯といわれているのよ。あなたは今から、そんな人の元に嫁ぐことになるの」
「……」

 継母は、いつも通りの歪んだ笑みを浮かべていた。
 それはきっと、私がその冷酷無慈悲な辺境伯の元で送る苦しい生活を楽しみにしているからなのだろう。
 そんな彼女の思い通りになるのは、癪である。しかし、この家において私には発言力なんてものはない。この婚約を退けるなんて、できないのである。



◇◇◇



 私は、馬車に乗ってメーカム辺境伯の元へと向かっていた。
 継母から話を聞かされてから、マルネイド侯爵家を出て行くのはすぐのことだった。邪魔者の私は、なるべく早く排除したかったということなのだろう。
 それは、こちらとしても望む所だ。あの侯爵家に、留まりたいなどという気持ちは、私にも微塵もない。

「不安があるとすれば……」

 一つだけ不安があるとすれば、メーカム辺境伯のことだ。
 冷酷無慈悲な辺境伯。その人から、私はどのような扱いを受けるのだろうか。

「侯爵家とどちらがましなんだろう……」

 正直言って、私はマルネイド侯爵家でもそれなりに悲惨な扱いを受けていた。その扱いと冷酷無慈悲な辺境伯からの扱い。そのどちらがましなのだろうか、それは気になる所だ。

「……あれ?」

 そこで、私はとあることに気づいた。いつの間にか、馬車が止まっていたのだ。
 どう考えても、まだメーカム辺境伯の元には着いていない。そのため、馬車が止まるなんておかしな話だ。
 私は、ゆっくりと馬車の戸を開ける。とりあえず、周りの様子を窺ってみるにしたのだ。

「おっ……出てきたみたいだぜ」
「……え?」

 私が馬車の外に出ると、そこには数名の男達がいた。
 その者達が何者かなんて、考えるまでもない。見るからに、野盗である。

「はっ! 楽な仕事だな。こんな小娘一人殺すだけでいいなんてよぉ」
「本当だぜ、しかもあっちから手引きしてくれるなんてな」

 野盗達は、武器を手にしながら笑っていた。
 この状況もそうだが、私はその話している内容に、恐怖を覚えた。
 楽な仕事、あっちから手引きしてくれる。その言葉の端々から、この襲撃を計画していた何者かのことが見えてきたからだ。
 選択肢としては、二つだろう。一つはマルネイド侯爵家、もう一つはメーカム辺境伯である。

「そ、そんな……」
「はは、いい顔しているなあ、お嬢ちゃん」
「別に好きにしてもいいんだよなぁ?」
「ああ、お客様はどうしてもいいと言っていたぜ?」

 私は、絶望していた。こんな所で、こんな形で最後が訪れるなんて、考えてもいなかったことだからだ。
 どうして、私がこんな目に合わなければならないのだろうか。その意味がわからない。
 恐怖も相まって、私は腰を抜かしてその場に尻餅をついていた。そんな私を見ながら、野盗達は下種な笑みを浮かべている。

「さて、それじゃあ……うん?」

 その野盗達が、私に迫ろうとしたその時、彼は何故か足を止めていた。
 その直後、彼らは後ろを振り返る。それに合わせて、私もその方向に目を向ける。

「なんだ? お前は?」
「……」

 そこには、一人の青年がいた。私と同年代くらいの青年が、いつの間にかそこに立っていたのである。
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